「来るべき再起働に向けて」
大きなタイトルが目に迫ってくるのは、11月11日発行の東京電力労働組合の機関誌『同志の礎』(つなぐ号外9号)である。
再起働とは、柏崎刈羽原子力発電所についてである。防潮堤の建設など、安全対策を高める工事が行われていることを、担当者の意気込みなどを含めて、紹介している。
衆院選を巡って、原発の是非が問われている時に、柏崎刈羽原発の再起働に向けて、拳に力を入れているのが、東電労組なのだ。
東電労組とは、不思議な組合だ。
ネット上に、東電労組のホームページがあるが、電話番号も所在地も記されていない。
労働組合とは公の団体である。労働組合のホームページなら、たいてい、地図入りで所在地が記されている。
問い合わせてみると、NTTにも電話番号は登録されていない。
過去の資料から、所在地と電話番号は分かった。
JR田町駅の近くに「礎会館」という、東電労組本部の建物があるようだ。
どんなところだか、行ってみることにする。
田町駅から歩いていくと、なんとそこは更地になっていた。建築準備用の簡易な壁で覆われている。どこに移転したのか、という表示もない。
東電労組に電話して、「ちょっとお伺いしますが、そちらの所在地を教えてください」と訊くと、「失礼ですけど、どちら様でしょうか」と言う。
「あの、そちらは労働組合で、公の組織ですよね」と質すと、所在地を教えてくれた。
浜松町に移転したようだ。
所在地は、東京都港区浜松町1-21-2
電話番号は、03-3459-8555
行ってみると、1階の入り口にギリシャ風の円柱のある、壮麗なビル。東電労組本部は、4階にある。
インターフォーンを押し、「『同志の礎』を一部分けていただきたいのですが」と言うと、「どうぞ、4階にお上がりください」とのこと。
4階でエレベーターを降り、本部へ入ると、女子職員がおたおたしている。
奥から、男子職員が出てくる。名刺を見ると、教育・宣伝局部長とのことだ。
「『同志の礎』は組合員向けのもので、外部には出してないんですよ」と言う。
「えっ? 労働組合は公の組織でしょう。たいていの組合では、言えば機関誌を分けてくれますよ」
「そうですか、しかしまあ、こういう状況ですし」
「こういう状況って、どういう状況ですか?」
「それはまあ……」
押し問答したが、結局、『同志の礎』は分けてもらえなかった。
しかるべき処から手に入れると、「来るべき再起働に向けて」の特集だったのだ。
確かにこれでは、外には出せないだろう。
福島第一原発の事故では、下請けの労働者はもちろん、東電の従業員も規定値以上の被曝をしている。
再起働よりも事故の検証が先、と主張するのが、労働組合の役割だろう。
東電労組はユニオンショップ制で、従業員はすべて組合員だ。
東京電力のホームページを見ると、原発事故に関わる損害賠償や、福島原発の状況に関する説明が大きく扱われている。柏崎刈羽原発の再起働への準備など、サイトの奥の方に行かなければ見られない。
これが外向きの姿勢で、内向きの本音である、再起働に向けて授業員の“団結”を固める、という役割を労働組合が果たしているのだ。
東電労組は、会社のできないことを率先して行う組合なのだ。
(FY)