原発利権フィクサーとして知られる白川司郎が、「最後の大物フィクサー」という表現が名誉毀損だとして、ジャーナリスト田中稔を訴えた裁判が12月10日、東京地裁で行われた。
同訴訟については、国境なき記者団(本部パリ)が「名誉毀損で訴えられている調査報道ジャーナリスト田中稔氏を全面的に支援する」という声明を発表。8月31日に外国特派員協会(有楽町)が、田中稔を招待し、記者会見を開くなど、海外メディアの関心も高い。一方、国内の大手メディアからは全く無視されてきた裁判だ。
今回の公判では、被告の田中が、新たな調査に基づく準備書面を読み上げた。
原告の白川司郎が、去る9月2日に群馬県軽井沢でゴルフコンペを開催。同コンペに元警察庁生活安全局長の黒澤正和、パチンコ利権フィクサーとして知られる熊取谷稔、元特許庁長官の吉田文毅らが参加していたことを指摘した。
田中は、「この3人と白川氏を関連付けるキーワードは、第一に『特許』、第二に『パチンコ』、第三に『原発』です。コンペにはニューテックに対して13億3千万円もの貸し付け融資を実行した新銀行東京の現職の取締役や元海将らも含まれていました。原告がニューテックグループの陣頭指揮を執っている様子、原告が業界と官僚OBをつなぐ仲介役(フィクサー)と呼ぶのにいかにふさわしいかを確認しました。週刊金曜日11月16日号に詳しく掲載されていますのでご参照ください」と述べ、白川司郎をフィクサーと呼んだ自らの記事の正当性を主張した。ニューテックとは原発警備会社である。
ちなみに熊取谷稔は、警察官僚に取り入って、パチンコ・プリペイドカードやJネット(金景品・貯玉システム)の導入に暗躍した人物。パチンコカードシステムは、変造・偽造カードが横行し、1千億円以上が闇社会に流れた。
傍聴席には、政界フィクサーの朝堂院大覚の姿もあった。当日の公判に欠席した白川司郎の代理人の元特捜検事土屋東一は、かつて朝堂院を取り調べた因縁がある。公判後の集会で朝堂院は、弁護士になった土屋が「自分は暴力団や悪人の弁護をするつもりはない」と能書きを述べていたことを指摘、白川のように暴力団を利用してきた利権屋の代理人になっている現在の土屋に対し、ヒトコト言うつもりで傍聴に来たと述べた。
もっとも、この人物が、後藤田正晴にヤミ献金を渡したことを認めて、後藤田が逮捕されていれば、亀井静香や白川司郎ごときがノサバルことも無かった筈なのだが―。
それはともかく、既に海外のメディア関係者からも注目を集めている以上、裁判所もあまりおかしな判決は出せないだろう。
問題なのは、白川のスラップ訴訟について全く報じようとしない新聞・テレビだ。彼らは、これまで白川司郎を実名で報道してこなかった為、いまさら実名報道をすると辻褄が合わなくなるし、匿名のフィクサーがジャーナリストを訴えたという記事では、自らの臆病さと無能を、宣伝する事になってしまう。
本来、白川司郎などは、亀井静香の腰巾着からスタートし、いつの間にかフィクサー気取りになった利権屋にすぎない。マスコミが恐れるのは、公安警察の中で非合法活動を行ってきた謀略部隊を、亀井が手懐けて私兵化し、「俺の私設CIA」と呼んでいる連中なのだ。
亀井静香が新党を立ち上げた記者会見の席で、脱原発を新党の目標にすると宣言しても、記者の中から誰一人として、原発利権フィクサー白川司郎との関係や、亀井の関連会社ジェイ・エス・エスとの整合性を質問する記者がいなかったのは、その為だ。
彼らは本気で、東電や原発を批判した週刊東洋経済の編集長や、NHKのアナウンサ―のように痴漢で逮捕されたり、ベネチア国際映画祭で東電に宣戦布告した若松孝二監督のように、不慮の事故に見舞われる事を心配しているようだ。
そんな心配をするぐらいなら、最初から記者やジャーナリストになるべきではないのだ。
(橋本征雄)