12月のBBCビルマ語放送によると、ミャンマー(ビルマ)では民主化に伴うインターネット使用の自由化により、ビジネスメールの活用が増えているという。米の販売店は「国内各地の米の価格を、仕事仲間に即日で伝えることができるようになった」とメールの利便性を称えている。
将来は農業に従事する人々も、メールを使うようになるかもしれない。しかし今は、パソコンやインターネット端末を持つ人間は一部に限られる。ヤンゴンではパソコンを持たず、インターネットカフェを利用する人が多い。

夫の実家の住み込み家政婦、ミーシェ(20代前半)は、少数民族州であるラカイン州の稲作農家出身だ。3000円の月給では、パソコンや携帯電話は持てない。彼女の趣味は、テレビで絶え間なく放送される韓流ドラマを見ることだ。
ミャンマーの若者の間では、韓国文化がブームになっている。20代の若者が民族衣装のロンジー(腰巻き)を脱いでGパンを履くと、「韓国風のファッションが流行しているから」と年配の人は言う。ミャンマーでの洋装化は、「韓国風」になることなのだ。ミーシェもTシャツにスカートという「韓国風」ファッションで、髪にハデなメッシュをいれて脱色している。

彼女はアイロンがけをしながら、昼夜、ビルマ語字幕のついた韓流ドラマを見る。私が一緒にテレビを見ながら、ゴルフ番組にチャンネルを変えると、「マチャイブー(ビルマ語で、好きじゃない)」と文句を言う。
ミーシェが見る番組には、K‐POPや韓国ラップを真似たミャンマーミュージック番組もある。ミャンマー人の男性ミュージシャンが、常夏の日差しのもと、「韓国風」の長袖革ジャンを着ている。
後に、この様子を40代のミャンマー人夫に話すと、「カッコつけているつもりだろうが、暑いのに革ジャンなんか着て、アホか」と感想を述べた。夫の年代では、民族衣装から洋装に変える意識は、あまりない。

ちなみに、私が滞在した夫の実家は、ヤンゴンの一等地にあり、近隣には軍事政権のトップメンバーが居住していた。この家は、夫が、日本のホテルでシーツ交換をし、居酒屋でゲロ掃除をして稼いだ金で建てた。だから義妹は、一家の稼ぎ頭の嫁である私にとても気をつかう。
ところがミーシェは、私のことを「日本人という、なんか変な人間が来た」と思っている様子。あからさまに揶揄した感じで、私の日本語なまりのビルマ語発音を真似しながら、皿洗いをしていたりする。
彼女は熱心に家事をこなすが、料理下手だ。野菜炒めは半生で、コーヒーを淹れることもできない。そこで、家事と仕事の両立で忙しい義妹が、毎朝コーヒーを淹れる。
「ミーシェにコーヒーを淹れてもらえば」と義妹に言うと、「たくさん仕事の指示を出すと、ミーシェは『米農家の実家に帰ります』と言い出す。だから、彼女のできることだけをやってもらっている」とのこと。ここでは、従業員マネジメントや従業員の心構えといった、仕事の基本理念が抜け落ちているのだ。

「ミャンマー人は勤勉だ」と、日本の新聞でミャンマー進出を促す言葉が踊る。確かに勤勉だ。しかし軍事政権下の教育低下は、職業意識や個人の能力に影響を及ぼしている。ミーシェが新しい仕事を覚えようとせず、また義妹がミーシェを教育できないのは、おおもとに国家の教育制度の貧弱さがある。

いずれ民主化が進めば、ミーシェも外国資本の工場などで働ける日が来るかもしれない。しかしミャンマーは今、国の夜明けを迎えたばかりで、厚待遇の仕事は少ない。彼女は当分、夫の実家で、家事を研鑽することになる。この韓流びいきな若い家政婦の未来が開けるには、ミャンマーの健全な民主化が、どうしても必要なのだ。(続く)

(深山沙衣子)

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