東京都江戸川区東篠崎にある東京都下水道局の篠崎ポンプ所は、かつて二度、殺人事件の現場になっている。しかも、いずれの事件でも犯人は今も捕まっておらず、未解決事件に数えられている。ポンプ所の関係者に何か責任があるわけではないが、薄気味悪い雰囲気は否めない場所である。
◆1988年9月9日の女性バラバラ殺人事件
最初の事件が起きたのは今から約29年になる1988年9月9日。同所の地下2階にある汚水をためておく水槽の4号沈砂地に女性の死体が浮いているのを職員が見つけた。死体は裸で、上半身しかなく、腹部から刃物で切断されていた。様々なゴミと一緒に浮いており、職員は当初、マネキンと思ったという。
女性は推定20~30代前半。指にマニキュア、両耳にピアスの跡があり、わきは脱毛されていた。警視庁は犯人が女性を殺害後、切断したうえ、道路脇にある雨水用のU字溝やマンホール、下水の工事現場などの開口部から下水道に投棄したとみて、捜査を進めた。だが、いまだに女性の身元すら不明のままだ。
私がこの地を訪ねたのは2013年6月のこと。所内には入れなかったが、そばを流れる旧江戸川に設置されていた同所のゲートは印象深かった。沈砂地にためた雨水を川に放流するためのゲートだそうだが、女性のバラバラ死体は見つかっていない部分もあるそうで、このゲートから一部が流れ出た可能性もあるという。そうだと知ったうえで見ると、単なる雨水の放流のためのゲートも不気味なものに見えてくるものである。
◆2002年3月17日には敷地内で個人タクシー運転手強殺事件
もう一件の事件が起きたのは2002年3月17日のこと。「敷地内に防犯灯がついたタクシーが止まっている」という同所職員の通報をうけ、警視庁小松川署の署員が駆けつけたところ、そのタクシーの後部のトランク内から死体が見つかった。死体は個人タクシー運転手の山口雄介さん(当時54)で、胸や背中に約10カ所の刺し傷があり、売上金がなくなっていたという。警視庁は強盗殺人事件とみて、捜査を進めたが、この事件も15年余り経った今も犯人は検挙されないままである。
近隣の住人によると、何が根拠かはわからないが、警察は「犯人はポンプ所の裏門から逃げた」とみているようだったという。なんでもこの事件が起きた頃は、ポンプ所は敷地内に自由に出入りできたそうである。私が訪ねた際には、門はきちんと閉められ、部外者が自由に中に入れなくなっていたが、二件の殺人事件の現場になってしまったことが理由だと思われる。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。