梅野は現地ムエタイのライト級域の中では警戒されるほどの有名な選手。かつて戦った選手や今後戦う可能性のある選手の中では梅野の弱点は知れ渡っているでしょう。現地での王座奪取や防衛がいかに難しいか、本場の壁が立ちはだかります。
◎5月17日(水)
タイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級(135LBS)タイトルマッチ 5回戦
チャンピオン.梅野源治(PHOENIX/135Pond/61.23kg)
VS
同級7位.サックモンコン・ソー・ソンマイ(135Pond/61.23kg)
勝者:サックモンコン / 0-3 (46-49. 47-49. 46-49)
◆戦略が狂ったか?
梅野は計量では1回でのパスではなかったようですが、サックモンコンも予備計量で1.4ポンド(約635グラム)オーバーの様子があったようです。
梅野は第1ラウンド終盤にサックモンコンのパンチでダウンし、戦略が狂ったか、梅野より長身のサックモンコンとの距離を詰め難く、離れた距離からのパンチは流れ、その距離に応じたサックモンコンの蹴りやパンチが効率よく当たる。梅野の距離に持ち込んでも次に繋げる連続技には成り難く、サックモンコンの精度の高いヒットが目立っていく。「どちらがチャンピオンか」と言われるような技術の差も露になった劣勢も挽回出来ず終了。
◆ボクシングとは異質なムエタイの採点基準
キックボクシングやムエタイの世界では、“世界”と名の付く王座より、本場タイの伝統あるルンピニースタジアムやラジャダムナンスタジアムの王座が最高峰と位置付けられる時代が長く続いています。
ラジャダムナンスタジアムは1941年の設立。ルンピニースタジアムは1956年の設立です。その原点には「ムエタイ500年の歴史」やタイの小学校の教科書にも出て来る1774年のビルマとの戦争にまで遡る「ナーイ・カノムトム物語」があります(重複ながら、関心が持たれ難い歴史を再確認する意味で掲載しております)。
ムエタイの採点はボクシングとは異質な基準があります。ムエタイを熟知している人には理解できるでしょうが、ボクシング基準の「ラウンド毎の独立した採点」が固定観念として残っていたり、ムエタイの展開が読めない者から観れば、どうしても不可解な結果が残る場合があります。
◆持ち味を殺してしまった試合運び
梅野は初回にパンチを貰ってダウンを喫し、それでリズムと戦略が狂って、それ以降も明確に抑えたとは言えないラウンドが続き、大差判定負けとなる結果が残りました。梅野より背が高い相手となると、過去にも非常に少ないタイプ相手だったことも要因でしょう。踏み込めず、ボクシングにあるようなアップライトスタイルのボクサーに打って向かう側のパンチの届かないもどかしさ。届いてもその威力を軽減する術を持つスタイルですからダメージを与えられません。
サックモンコンの蹴り技に凄さがあるわけではなかったですが、梅野の持ち味を殺してしまった試合運びの上手さで勝利を導きました。念願の本場、二大殿堂のひとつラジャダムナンスタジアムで防衛することを目標に頑張ってきたことに対し、このチャンピオンが大差判定負けすることはショックな結果でしょう。このところの激戦続き、怪我も重なり回復したとはいえ、調子の戻らぬままの殿堂登場でした。
◆ここから這い上がれるかをファンは注目している
こんな展開に「梅野は弱くなったような気がしますね」という声も聞かれましたが、ここから這い上がれるかをファンは注目しているでしょう。かつて梅野が言った試合での「相手の心折る戦略」が大事ならば、梅野自身が心折れることなく、伝説の“藤原敏男を越える戦い”はまだまだ続けるでしょう。
「NO KICK NO LIFEイベント」から続く強豪との対戦や、ヤスユキ(Dropout)戦での顔面負傷、WBCムエタイ世界王座の防衛戦、ラジャダムナン王座奪取、そして「KNOCK OUTイベント」での注目度ある相手との3連戦が続いた中でのラジャダムナン王座防衛戦でしたが、ラジャダムナン王座1本に集中して欲しかったファンも多かろうと思います。今後どうするかは梅野陣営の采配でしょうが、少し休んでから再起し、予定される7月以降のビッグマッチ出場となるのでしょうか。
[文]堀田春樹 [画像提供]weekly MUAY TU
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」