以下の仮想は現実に起きる物語ではない。フィクションである。
しかし、現在の政治状況と全く無関係かといかといえば、そうではない。
幾分筆者の思想傾向が影響してもいよう。本作は3部に分けてご紹介する。
ありもしないフィクションが展開されることをあえて強調しておく。
ヤス それで。言いたいことはそれだけ?
ミサ うーん……。まだわかってくれてないんでしょ。どうせ。
ヤス さあ、どうだろう。ミサの話は耳で聞いて、脳に伝えた。俺の脳がそれをどう判断するかは「保留」なのかなぁ。
ミサ じゃあ、もう一回だけだよ。あのね、こんなチャンスってないんだって。絶対むりってあきらめてたのに、ヤバイくらい嘘みたいな展開なんだよ。これ逃したら次はないんだよ! マジで。
ヤス 俺さ、その「嘘みたい」っていうのがひっかかってるんだよな。
ミサ でも、現実じゃん。私だけが言ってるんじゃないことくらいわかるでしょ?テレビも新聞もネットも。みんな大騒ぎになってる。私なんかおかしい?
ヤス タバコ一本吸っていい?
ミサ また話をはぐらかして。約束違反! ほんとは罰金1000円だけど今回だけは許してあげる。一本だけだよ。ねぇねぇ、こんなこと、うちら産まれて初めてじゃん。
ヤス そうかなー?
ミサ 絶対そうだってば。ほら、ツイッターのトレンド見て。ね、芸能ネタとかなくて、みんなこれ一色でしょ!わかるよね。
ヤス うん、まあね。
ミサ だから、私がちょっとだけ仕事休むのも無理ないよね?いいよね?
ヤス それはミサの権利と判断だから俺、口出しはしないけど。
ミサ 「口出ししないけど」なんなの?
ヤス やめない? この話題。
ミサ どうしてヤスっていつもそうなの? 政治の話ってそんなにダサい? 私って変?
ヤス そうじゃないけど(おい、早く切り上げろ。今夜は党の重要な会議だろ。「女一人オルグ出来ない」お前の特務の最終打ち合わせじゃないか)。「そうじゃないけど」じゃないな。政治の話は大切だと思うよ。うん。
ミサ なら、どうして興味持たないの?
ヤス 興味持たないわけじゃないけど……。政治は大事だよ。大事だと思うよ。だから俺は明日もまじめに働くのさ。
ミサ 全然答えになってない! ヤス、なんでツイッターやフェイスブックやらないの? 意識の高い知り合いができるし、すごい勉強になるのに。街宣や集会にいきなり一緒に行こう、って私は言わないから、ちょとSNSしてみない?
ヤス SNSねぇ(俺はミサが好きだけどがSNSをしていることが気に入らないんだよ!)。
ミサ ヤスが妬くかなぁと思って内緒にしてたけど、私フォロワー1000人もいるんだよ。そんで、フォローしてる人の中には政治家もいっぱいいて、毎日DMしてくれる人もいるんだ。誰だと思う?
ヤス DMってなに?
ミサ ダイレクトメッセージ。直接その人とだけ会話できる、みたいな感じ。それで誰が私とDMしてくれてると思う?
ヤス 誰って言われてもね(おい、集合は9時だぞ。もう急がなきゃ間に合わない! わかってるのか!)。
ミサ 大池薔薇子さん! 嘘みたいでしょ。でも嘘じゃないんだ。これ、ほらきょうのDM。見て見て。「ミサさん応援いつもありがとう。きょうもオフレコですが大沢二郎さんに逢いました。候補者選定は順調です」って。ね!びっくりした?
ヤス (なーんだ。定型文の返信じゃないか)へー。ミサ、そんな大物と友達なんだ。じゃあ俺なんかと付き合ってる暇ないじゃん。
ミサ 友達じゃないよ。大池さんはこれからの日本政治のキーパーソンだから、私なんかにどうしてかまってくれるのかって思うけど、誠実な人なんだよ。それから私とヤスの関係と大池さんは別でしょ。
ヤス わかったよ。仕事休んで選挙手伝いな。
ミサ ほんとう! マジで賛成してくれるの! うれしい! ありがとうヤス!
ヤス うん。無理しないようにね。
(ミサがシャワーに向かおうとする)
ヤス あ、きょうはダメなんだ。
ミサ なんで、せっかくヤスが理解してくれたから泊ってもいいでしょ?
ヤス これから、田合さんに逢わなきゃいけないんだ。覚えてるだろ、鎌倉支店のときによく飲みに連れて行ってくれた、愛媛出身の内気な田合さん。結婚が決まったんだ。仲間内でお祝いに飲み会。新宿で。
ミサ なーんだ。でも田合さんの結婚祝いじゃワガママいえないね。私もお世話になったから。田合さんよかったね。あの人純粋すぎて彼女出来るか心配してたんだ。
ヤス 俺もだよ。田合さんの結婚も「嘘みたい」だろ? だから今夜は悪いけど。明日は泊っていっていいよ。
ミサ あ、明日から夜はダメなんだ。証紙張りとか電話かけとかもう始まるんだって。
ヤス そっか。じゃあミサの時間のある時に、電話入れて。
ミサ うん、わかった。ありがとうね。ヤス。あ、そうそう。ヤスってなんでメールも使わないの?
ヤス いつも言ってるだろ。「俺はすべてが時代遅れの人間」だって。
ミサ フン。でも、まいいや。じゃあきょうは帰るね。
ヤス 駅まで一緒に行こう。
ミサ うん。でも、意外だった。ヤスは絶対乗り気じゃないから、賛成してくれないと思ってたんだ。
ヤス もうその話はいいじゃん。ミサだってもう30なんだから。俺が私生活をあれこれ言うのも嫌なのはわかるさ。
ミサ そんなことないけど……。ヤスが心配してくれてるのは分かってるし。だからヤスに嫌な思いさせながら、は重かったんだ。
ヤス じゃあ気を付けて。俺は地下鉄だから。
ミサ じゃあね。
(つづく)
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。