高田馬場に「ルビー」というビルマ(ミャンマー)料理店があり、たまに食べに行くのだが、店の主人夫婦を追ったドキュメンタリー映画が公開されるというので、見に行った。
土井敏邦監督『異国に生きる』である。
店の主人、チョウチョウソーさんが、民主化活動家のリーダーであることは聞いていたが、詳しいことは映画を見て知った。

私の知り合いがビルマの寺に瞑想しに行く、という時も、店に食事がてら相談に行った。
その時の、今から思えばまったく間違った誤解を、恥ずかしく思い出す。
民主化を求めるデモ隊に、ミャンマーの軍隊は、銃弾を撃ち込むこともいとわない。
ミャンマーのイメージは硝煙と結びついていて、静かに瞑想をしに行く国とは、とても思えなかったのだ。
だが映像で、私も見てはいたのだ。デモの先頭に立っているのが、僧侶たちであることを。
彼らこそ、本当の宗教家だろう。そんな僧侶たちの元で瞑想に励むのは、意義深いことなのだ。もちろん、山の中の寺までは、軍隊もやってこない。
「ルビー」で、奥さんのヌエヌエチョウさんは流暢な日本語で、自分の家族のところに行けば街を案内してくれる、と地図まで書いてくれた。

チョウチョウソーさんは、1992年に日本にやってきた。
民主化運動に参加していたために、逮捕されるおそれがあったからだ。
息子に刑務所に入ってほしくない、という父親のたっての願いもあり、日本にやってきた。
日本の入国管理局は、チョウチョウソーさんをなかなか難民とは認めようとせず、在留資格も与えようとしなかった。
そんな困難の中で仲間たちと、レストラン「ルビー」を開いたのだ。
奥さんが日本に来られたのは、5年も経ってからのことだった。
仕事をしながら、チョウチョウソーさんは、ミャンマーの民主化運動を行っている。
約2万人いる日本国内のミャンマー人にネットを通じて情報発信し、収容されてしまった仲間に会いに行き、仲間たちとともにミャンマー大使館に抗議に行く。

ミャンマーは今、民主化していると言われているが、その実相は本ブログの「ミャンマーの『民主化』は本当か!? ヤンゴンで生活してみた」に書かれているとおりだ。
チョウチョウソーさんはまだ、自由にミャンマーに帰ることはできない。
最近第三国で、14年ぶりに父親と再会した。
ずいぶん歳をとり痩せてしまった、と言いながら、再会がとても嬉しかった、と舞台挨拶で、感慨深げにチョウチョウソーさんは語った。

そんな困難の中でも、彼は言う。ミャンマーに留まって民主化運動を行っている者には、逮捕が待っていたし、命が奪われる可能性さえあった、自分にはそこまでのリスクはない、だからもっと頑張らなくては、と。

東日本大震災の被災地に、彼らは支援に行った。
日本人の口にも合うように工夫しながら、ミャンマー料理を振る舞ったのだ。
体育館で暮らしている被災者たちの間に、笑顔が広がる。

日本には、当たり前のようにある、自由。果たして私たちは、それを活かすことができているのだろうか? ふと、そんなふうに自分に問いかけたくなってしまう。

『異国に生きる』は、ポレポレ東中野で4月25日まで上映されている。

(FY)

★写真は、舞台挨拶するチョウチョウソーさん(左)と、土井敏邦監督(右)

ミャンマーの『民主化』は本当か!? ヤンゴンで生活してみた 17