◆駅前で「憲法改正反対」と言ったら「葛飾区民ではない」と言い放った区議候補

少し前に東京へ出張したときのことだ。総選挙は終わっているにもかかわらず、とあるJRの駅前ではやたらに選挙カーや演説の声が耳に入ってくる。葛飾区の区議選挙が行われていた。昼間に取材の仕事を終え夕食をとろうと、駅から出ると自民党の候補者が「区民の皆さんの声を聴きながら改憲を進めてまいりたいと思います!」とがなり立てていたので、「憲法改正反対!」とその候補者に肉声で声をかけた。するとあれこれ言分けがましい屁理屈を並べた挙句「そう意見の方は区民ではありません!」とさすがの私もブッタまげるような無茶を言い放った。まあ、実際私は葛飾区民ではないから半分はあたっているのだけども、私ではなくとも、本当の葛飾区民のどなたかが「憲法改正反対」と言ったら「葛飾区民ではない」とその候補者は言ったわけである。

ここまで横暴なことを平然と選挙(区議選)とはいえ、言い放つことが自民党公認候補に可能になったのだな、と不快さが増した。

◆身をかわしてもぶつかり続ける東京ドーム「乃木坂46」ファンらしき若い群衆

不快さが増す前からその日は実に腹立たし思いをして虫の居所が非常に悪かった。立ち寄り先が東京ドームの近くにあり、地下鉄丸の内線の後楽園駅で下車し、東京ドームを半周回る形で目的地へ向かっていたときのことだ。見たことのない様々な若い女性の顔が印刷された垂れ幕が無数にそこここにかかっていて、東京ドームの横に目を向けると少なくとも数千人から1万人近い人の群れがあった。人間が1万人近く集まると人いきれや、しゃべり声あるいは「人間集団」の気配を感じるものだが、東京ドームの横に群れて動かぬ人びとからは、それらがほとんど感じられなかった。新興宗教の集まりでもあるまいに、見たところ男性が多く10代から中年まで年齢層も広い。「群衆」からは人間の「匂い」やざわつき、「熱」といったものが感じられないのが不思議だった。

なにが起こっているのだろうかと無数の垂れ幕を注意してみると「乃木坂46サマーツアーFinal」と書かれていた。

ああ、これが山田次郎氏も本通信で取り上げていたかの有名な「乃木坂46」かと、浮世離れした中年は「はじめまして」と心のなかで挨拶をしておいた(特段の意味はない)。集まっている人びとを横目に、東京ドームをやり過ごして立ち寄り先で1時間ほどの用件を済ませた。

帰路も同様に東京ドームを半周回って丸ノ内線後楽園駅に向かう。コンサート開始時間が近づいてきたのだろう、先方からこちら方向に歩いてくる人の数がかなり増えている。ラッシュ時の駅ほどではないものの、前を向いて歩かなければ反対方向から歩いてくる人に数秒に1度は確実にぶつかるであろう程の密集度合いだ。

ところが、通常よほどの人混みでも先方からぶつかられることのない私(外見が理由だち言う人もいるが真偽はわからない)に、数メートルごとにスマートフォンを見ながら歩いてくる若者が肩や正面からぶつかってくる。もちろんこちらも衝突は避けたいので右へ左へ身をかわすが、そこにもスマートフォンを覗き込んだ兄ちゃんが、かつてのインベーダーゲームでほとんどの敵を殲滅した、最終局面でこちらの砲へ残存インベーダーが垂直に近い角度で降りてくる現象(こんな古臭い例えがわかるだろうか?)の光景が水平方向に展開される。

逃げ場がないから、残存インベーダーならぬ「乃木坂46」ファンは次から次へと私にぶつかってくる。肩に当たる奴がいれば正面衝突してくる猛者もいる。東京ドームを半周するあいだにぶつかってきた残存インベーダーは10人ではすまなかった。「どこ見とんねん!」、「前見て歩かんかい!」と衝突されるたびに叱責していたけれども、だんだん腹が立ってきた。私は「乃木坂46」を知らないので、好意も悪意も持ち合わせてはいなかったし、彼女たちに罪はない。だけども結構な数の国やこの国でもあちこちの人ごみを歩いたけれども、こんな体験は初めてだったので、終盤ぶつかってきた兄ちゃんたちには「強め」の指導をしておいた。

だらだら長くなったが、某駅で葛飾区議選にぶつかる前に、残存インベーダーとの予期せぬ格闘に久々、イラついていたのだ。

◆「差別反対!」と発したら四方八方から「朝鮮人は出て行け!」と罵声を浴びた!

食事を終えて再び駅に近づくと今度は「外国人への生活保護打ち切りを」とか何とか書いた布を後ろに、露骨な外国人差別演説をしている候補者がいる。「ほらみろ『ヘイトスピーチ対策法』なんか作ったってこういう奴にはまったく効果ないじゃないか」と思いながらも、街中で堂々と繰り広げられる大声の差別演説者の目の前まで行き「差別反対!」と声を発したら「朝鮮人は出て行け!」、「反日朝鮮人は消えろ!」、「半島へ帰れ!」など四方八方から罵声が飛んできた。

罵声を飛ばす人たちの目は血走っている。彼らの目には2013年初期頃、在特会らが行なってた集団ヒステリーに近い根拠のない憎悪が満ちていた。しかし的外れもいいところだ。私には(大昔の祖先までは 知らないけれども)確認で来ている範囲で朝鮮民族の親族はいない。だから「なんでワシが朝鮮に帰らんとあかんのや!」とやり返す。

◆「黒いカバン」もぶら下げていないのに警察官に呼び止められて詰問された!

すると制服警察官が寄ってきた。

話を聞きたいという。話も何も「あんたらさっきから見てたやろ。あの候補者がひどい差別をマイクで放言してるから『差別はやめろ』と一言言っただけじゃないか」と言うと、「そこは見てましたけど公選法違反の可能性もありますので」とぬかしやがる。マイクを使って演説をしている候補者にひとり肉声で一言だけ「差別をやめろ」と言ったら公選法違反になる? おいおい、そんな乱用きいたことないぞ。これで公選法違反になるなら右翼の街宣車による選挙妨害や「安倍やめろ」の大合唱はどうなる?

「任意なんだろ? なら帰る」とその場を立ち去ろうとすると制服警官が前に立ちはだかり「転び公妨」をしかけてくる(注:「転び公妨」とは警察官が市民を不当逮捕しようとするときに、自らわざと転んであたかも暴力や公務執行妨害があったかのように演じる悪質劇)。

「名前を教えてくれ」、「住所は?」、「お仕事は?」と次々にうるさく聞いてくるが「早く帰らせろ。令状もないのに拘束するのか」と聞くと「ご協力願えませんか」と言葉だけは丁寧だ。そうこうするうちに今度は私服警官が3人やってきて制服警官をその場から立ち退かせた。

鈴木信行=葛飾区議

制服警官は何度も「差別をやめろ、と言われたところは見ていました。それだけなら問題ないです」というので「それだけじゃないか。もし私が選挙妨害したと言うなら告訴させろ。そのかわり、このあたりには監視カメラが無数にあるだろうから、証拠は無数にあるだろう。あちらさんは誣告罪(虚偽親告罪)になると思うがね。こっちのほうがぼろくそに言われたのを見ていただろうが!選挙中にそこまでやるならやらせろ」と言うと、「いえ、そこまで大げさな話じゃないんで」と埒が明かない。

制服警官に代わった私服は私の目の前には2人しかいなかったけれども、途中注意深く周りを見回すと壁の影や柱の向こうに少なくとも5人がこの様子を観察している。しかしいくらなんでも一声「差別反対」と言っただけで散々周囲から罵倒された挙句「公選法違反容疑」で駅の中に長時間留め置かれる筋合いはない。けれども、揚げ足取りで私服警官は明らかにこちらの逮捕を狙っている。ったく! 残存インベーダにはぶつかられるし、差別候補者のせいで警察に狙われるし、ろくな日じゃない。結局1時間半ほどしてようやく解放されたが、その当時の候補者は選挙でめでたく当選し、ツイッターでの差別的発信で今話題の鈴木信行氏であった。

警察から解放されて私は鈴木氏と話に行ったが、まったく話にならなかった。この人が当選したらえらいことになるだろうなぁ、と思っていたらやはり予想通り「時の人」になっているようだ。田舎者にとって東京は悪い刺激が多すぎる(私の性格が悪いからだろうか?)。散々な1日だった。

▼佐野 宇(さの・さかい)


◎[参考動画]葛飾区議選 京成高砂駅(大阪観光チャンネル2017/11/11公開)

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