村上春樹の書き下ろし小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が12日、全国一斉発売される。版元の文芸春秋社は8日、異例の50万部の発行を決めた。
それでも、「1Q84」の時のように、予約しないと手に入らない、店頭では目にすることができない、という状態がしばらくは続くのではないか。

一方、「1Q84」の人気も、文庫化されたこともあって再燃している。
ネットでは、「もし映画になったらどんな配役がふさわしいか」が盛り上がっている。
青豆には、長谷川京子、井上真央、野波麻帆の名が上がっている。天吾には、小澤征悦、瑛太、藤原竜也。ふかえりには、蒼井優、成海璃子、多部未華子、といったぐあいだ。
また、女優の杏は、映画化されるなら、青豆をやってみたい、と自ら語っている。

登場人物たちは、どれも魅力的で、100人読者がいたら、100通りの配役が予想できるだろう。100通りの読み方ができるのが、この小説だからだ。
オウム真理教、エホバの証人、ヤマギシ会、連合赤軍など、明らかに実在の集団や事件が素材になっていると思われる展開も多い。マインドコントロールをテーマにして、どうしたら、そうしたものに囚われずに生きていけるかを、追及した小説と読むこともできる。

月が二つある1Q84というパラレルワールドに入っていく、というSF的展開が主軸であり、そこにサスペンスもからみ、展開はスリリングだ。
青豆と天悟、ふかえりをめぐる、愛の物語として読むこともできる。
サブストーリーには、ハードコアポルノの要素まである。

だから逆に、刺激的なシーンを拾って繋いでいくと、通俗的な映画になりかねない。
「ノルウェイの森」の映画化は、その意味で、完全な失敗だった。
ノーベル賞へのプロモーション的な意味あいもあったと噂される映画化だったが、逆に遠ざかったような気もするが、それはどうでもいい話だ。

「1Q84」には、17歳少女とのセックスシーンもあるから、小説ならいいが、映画化されると東京都の青少年健全育成条例が黙っていない、という話もあるが、それもどうでもいい。

映画化されると、イメージが限定されてしまう。
100通りに読める、小説のままでいい。
とりあえず、新作が楽しみだ。

(鹿砦丸)