「TBSですが、ちょっとお話を伺いたいんですが」
インターフォンを取り上げて仰天した。アポイントも取らずに、自宅まで取材に押しかけてきたのか。有名人でもない私のところに……。
テレビではいい思いをしたことがなく、なるべく、付き合わないようにしている。
夕刊紙に載ったコメントを見て、テレ朝が連絡してきたことがあった。
その夕刊紙からして、とぼけていた。私と、他の者とのコメントを入れ違って載せていたのだ。
「いや、あれは違うんですよ。私のしたコメントは、そっちのほうではなくて……」
「収録の日程なんですが、明日か明後日にお願いしたいんですが」
まるで話を聞いていない。
それならそれでいいだろうと、取材に応じた。
児童売春の実態についてのことだったので、知っている限りのことを答える。
使われるのは数10秒だと思ったが、見てみたら5分ほども流れた。

人々は、なかなか活字は読まないが、テレビというものは見ているものである。
「ニュース見たよ」
10数年も音信の途絶えていた旧友から、電話がある。
「児童売春の研究なさってるんですね」
道を歩いていたら、新聞配達のお兄ちゃんに声をかけられた。
つい最近は、テレ東からメールで出演依頼があった。
宛名にあった、私の名前が違っている。
「本を読んでから、ご連絡ください」と断った。

そんなこともあって、とうとう家にまで押しかけてくるようになったのかと、焦る。
だが、違った。
「○○○号室の住人について、ご存じだったら教えて欲しいんです」
「なんかあったんですか?」
「ええ、殺人容疑で捕まったんです」
私目当ての取材ではなく、周辺の聞き込み取材だったのだ。
「どんな事件ですか?」
本人は、55歳の自称研究員。30年下の女性と結婚したばかり。殺されたのは、新妻が以前に勤めていた風俗店の経営者。結婚の障害になると考えてのことだったという。入籍は殺害の翌日だった。
そこまで聞き出してから、その男性も妻のことも、見かけたことさえないことが分かる。
「すみませんが、まったく知りません」
思わず謝ってしまったが、安心して、インターフォンを置いた。
同じマンションに殺人者が住んでいると知って、安心するというのも、おかしな話だが。

(FY)