仮想通貨取引所を運営するコインチェックは1月26日、顧客から預かっていた仮想通貨約580億円分が流出したと発表した。同社にかぎらず各種仮想通過でのマネーゲームをすでに多くの人が利用をしているが、ハッキング等盗難・消失被害を完全には避けられないのが現状だ。
2016年に成立した新資金決済法の下では、仮想通貨は「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」又は「不特定の者を相手方として相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」と定義されている。
仮想通貨は文字通り「仮想」の通貨、その価値の変動や場合によっては破綻してもそれを担保する責任母体はあくまでも民間企業(あるいはその連合体)であり、その点で各国が発行する一般の通貨とは、原則的に性質が異なる。
電子マネーの普及もますます進んでおり、中国ではスマートフォンを使って、自転車を共用するサービスが数年で主たる都市部に普及したという。過日はアマゾンが米国で無人のスーパーマーケットを開業し、商品を購入に際してレジが無い店舗が運用され始めたそうだ。電子マネーは電車に乗る際に、自動改札の指定された部位に、残高がチャージされたカードをいれた財布やスマートフォンをタッチする方法が、この国でもかなり以前から導入されているほか、各種店舗で利用可能なカードが普及しているので、利用している人にはその使用が日常的になっているだろう。
◆基本性格が異なる仮想通貨と電子マネー
似ているようで、まったく基本性格が異なるのが仮想通貨と電子マネーだ。いまのところ、電子マネーについて、その信用を根底から揺るがすような大トラブルは発生しておらず、今後もますます電子マネーの利用は増加の一途をたどるだろう。悪質なサイバー集団が大手電子マネーの決済に介入し、窃盗や横領を働いたというニュースは聞こえてこない(もっとも電子マネーをチャージしたカードやロックをかけていないスマートフォンを紛失してしまい、それを誰かが拾って使ってしまう、といった程度のトラブルはかなり発生しているようだが)。
他方、仮想通貨につては、冒頭記事でご紹介したように「取引所」の安定性が疑わしく、購入はしたものの換金を求めたら「取引所」が閉鎖されていたり、何者かによって本来は自分が保持しているはずの相当額が、奪われてしまうといったトラブルが頻発している。
仮想通貨を利用される方は、それなりの知識があって仮想通貨の産む、利益(投機性)や利便性を理解されてうえで購入をされているのだろうけれども、いかんせ民間企業が造り出した「仮想の価値」である。大きなトラブルが起きても、金融庁や警察は一応の対処には乗り出すだろうが、にせのお金(贋札や偽硬貨)が発行されたケースのように本気になっての対応は期待できないだろう。
日本の紙幣は極めて高度な技術で印刷されているので、カラーコピーを使ってお札を真似た贋札を作り、摘発される事件がまれにある程度だ。1982年に500円硬貨が発行された直後は韓国の500ウォン硬貨(当時のレートで500ウォンの価値は約50円と大きさが似通っていることから、細工をこらした多量の500ウォン硬貨が自動販売機などで悪用される被害が発生したが、2000年に500円硬貨の形状変更により類似の犯罪は激減した。
◆仮想通貨は何に「信用」を置いているのか?
さて、貨幣(お金)は信用に基づいて流通し、商品やサービスの購入の対価として用いられるが、それは大前提に「信用」があってのことである。仮に正式な国家が発行している通貨でも、その国の信用が低ければ、他国の通貨との交換が拒否されることは珍しくない。今日多くの海外からの旅行者が増え、たとえばみずほ銀行では18の通貨両替を行っているが、30年ほど前に日本国内で正式にタイバーツやインドネシアルピーを両替することはほとんど不可能だった。国同士相互の信頼関係や商取引が増すと信用もそれに連なり上昇してくるのだろう。
そう考えると、仮想通貨はなにに「信用」を置いているのか、という基本的な疑問にぶつかる。そもそも都道府県や市町村が発行する「地域限定」の「振興券」(多くの場合は購入金がよりも多額な価値が付与されている)のほかに、民間企業が「通貨」を発行することが許可されるのだろうか。通貨ではなく「株券」や「上場投資信託」といった名称を用いれば企業が有価証券を発行することは当然認められている。「図書券」、「ビール券」や「お米券」、デパートで商品購入が可能な「商品券」などはかなり昔から販売されていたし、ITunesやネットサービスに特化した有価証券もコンビニエンスストアでも販売されている。それらには安定的に供給されるサービスへの「信用」が基礎にあるので、利用者が定着するのだろう。
仮想通貨はどうやら、まだ「図書券」程度の安定性も確立されていないようだ。新資金決済法での仮想通貨の定義も「これこれができる」と外観を述べているだけで、その信用保証についての言及はない。当たり前だ。国は正式な貨幣を供給する唯一の権限を握っていて、それ以外の有価証券や決済サービスなどが貨幣経済を上回ってしまえば、国家存立の根源に関わる問題になる。その原則を考慮すれば、仮想通貨にはこの先も必ずリスクが付きまとうのは宿命だと考えた方がよさそうだ。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。