福島第一原発事故から2年余りが経過し、東京電力は事故を起こした原子炉の冷却も順調と発表、一応の落ち着きを取り戻したかのように見える。しかし、先月18日には仮設の配電盤に侵入してきたネズミが原因の停電で1、3、4号機の使用済み燃料プールの冷却機能が喪失し、あわや大惨事の事態となった。このことからも真の事故収束は遠い。そしてつい最近、東京電力が抱える最大の問題が明るみに出つつある。それは大量の汚染水。同原発敷地内には巨大なタンクが立ち並び、「この汚染水の処理こそが一番の課題だ」とは東電社員の言葉である。
福島第一原発は東日本大震災による地震、津波で壊滅的な被害を受け、1号機から4号機が爆発。1~3号機は燃料棒が溶け落ちる(メルトダウン)史上最悪レベルの事故を引き起こした。原子炉格納容器底部に溜まっているとされる溶融した燃料を冷やすため日々莫大な量の水を注水しているが、爆発などで穴の開いた格納容器からは水が漏れ出し、燃料に触れ放射能に汚染された水が建屋の地下に溜まっている。
しかも地震や爆発の影響で歪みや亀裂が生じてしまった建屋内には1日推定400トンもの地下水が流入し、汚染水を増加させている。この汚染水は一部、ポンプで汲み上げられ、「サリー」「キュリオン」と呼ばれる汚染水処理装置でセシウム、ヨウ素などの放射性物質を除去し、さらに塩分を除去して燃料を冷やすため再度格納容器に注入する、循環注水冷却に使われている。
だが、この過程でヒトの骨に蓄積し血液のガンなどを誘発するストロンチウムなどを含んだ再利用できない濃い塩水が生まれる。これが汚染水の正体で、前述の巨大なタンクに溜められている。その量は増加の一途をたどり、汚染水の総量は現在27万トンにまで膨れ上がっている。しかも、今この時点もその量は増え続け、東京電力はタンクの増設でかろうじてしのいでいるという状況だ。
この問題の解決のため、東京電力は去年、多核種除去装置(ALPS:通称・アルプス)の導入を決めた。ALPSでは「サリー」や「キュリオン」で取り除いているセシウムやヨウ素のほか、前述のストロンチウムなど62種類もの放射性物質を除去し、法定濃度以下に下げることができる。
計画では全部で3系統を設置、うち2系統を稼動させれば1日あたり約500トン、試算では約400日で敷地内の汚染水全てを処理できるという、東京電力にとってはまさに「救世主」だ。
このALPS、昨年の8月末には1系統が完成し、汚染されていない水を使って行われる通水試験を実施したが、その後、数ヶ月を経ても実際の汚染水を使った試験は実施されずにいた。旧原子力安全・保安院が解体されて新設された原子力規制庁に改めて認可を求めなければならなかった背景もある。
しかし、目下の課題だったのがALPSで除去された高濃度の放射性物質を封入するための容器・HIC(ヒック)の耐久性である。東京電力は原子力規制庁の改善要求に応え、HICを補強し、クレーンで運ぶ際の高さにも留意。また万が一クレーンから落下した時のことを考え、落下先となりうる場所には緩衝材を施した。原子力規制委員会は最悪の場合HICを使用しないことも検討したが、東京電力は他の容器の使用は時間的にもコスト的にも難しいと回答している。
2月21日、原子力規制委員会がALPSについて「おおむね妥当」という評価を下し、東電は先月末、試運転に乗り出した。4月4日には誤操作による一時停止という事態があったが既に運転は再開。だが、ALPSがもし期待通りに稼動したとしても問題は山積なのである。
「HIC」は紫外線による劣化が確認されており、その対応が求められている。最終的な処分方法も決まっておらず、作業に従事する作業員の被曝管理も頭が痛い課題である。
中でも大きな問題なのが、ALPSでも唯一取り除けないトリチウムを含んだままの水をどう処分するかである。トリチウムはいわば放射能を持つ水素であり、放射性物質の中ではその危険性は比較的低いとされている。しかし、1度環境中に放出されると回収は不可能であり、もともとが水であるため人体に吸収され易いと言われている。
トリチウムを含んだ水を排出しているアメリカ・イリノイ州シカゴの原発付近で住民の病歴を20年間分析したところ、他の地域と比較して脳腫瘍・白血病が30パーセント増加、小児ガンが2倍になったというデータもある。
当初、東京電力はALPSで処理した水を海に放出することを考えていた。しかし、安全性に疑問を持った地元漁業の反対もあって認められず、規制委員会も処理後の水をタンクに保管することを東電に求めた。東電は15年の9月までにタンクを増設、容量を70万トンに増やすというが、それも2年半後には足りなくなる見通し。タンクの設置場所の確保も課題となっている。
しかし事態はもう一刻の猶予もない。東電は汚染水貯蔵のためにタンクとともに地面を掘って3重のシートで防護した地下貯水槽を汚染水貯蔵先として運用していたが、そこで汚染水漏れが発覚したからだ。これで東電の汚染水貯蔵計画は完全に狂ってしまった。
これら汚染度の高い水を放置しておくなど論外である。一刻も早くALPSによって放射性物質を低減し、次はどう処理するのか、先を見越した対応が求められる。
【写真キャプション】福島第一原発構内に設置された汚染水貯蔵タンク(撮影者・村上和巳)
(藤原由佳)