最近、知り合いの高齢女性が「押し買い」の被害にあった。
家にやってきたのは、30代の男女。
「演劇をやっているんですが、公演で使う衣装を集めているんです。いらない服があったら、安く分けてもらえませんか」とインターフォンを通じて言う。
家に上げてしまったのは、演劇ということに興味を惹かれたこともあるが、受ける印象がよかったからだ。

なぜ、見知らぬ者を、家にまで上げてしまうのだろうか。
高齢者が「押し売り」や「振り込め詐欺」で被害に遭うことが多いのは、やはり、さみしいからか。
「振り込め詐欺」の手口は様々に巧妙化したが、疎遠にしていた息子から助けを求められた、と思いこんで、犯人から言われるままに振り込むというケースが多かった。
高齢者になると、人との交流が少なくなるだけでなく、人の世話になることばかりが多くなり、頼りにされることが少なくなる。そこに、つけこまれるのだろう。

知人宅に上がり込んだ男女であるが、衣服に興味を示したのは最初だけで、しだいに貴金属を売ってほしい、と言い出した。
第三者として聞くといかにも不自然だが、言葉巧みであったために、結局、アクセサリーや高価な時計などを売ってしまった。

「押し売り」に対して、押しかけてきて物を買うのが、「押し買い」。
これが最近増えているようだ。
国民生活センターによると、訪問購入に関する相談件数は2008年度が69件、09年度は138件程度だったが、10年度は2424件、11年度は4146件に急増。12年度も2000件を超えている。

「査定だけでも」と家に上がり込んだり、最初は穏やかな口調だったのに、「もっと出せ」とすごむ業者も多いようだ。
「被災地では希少な貴金属が不足し、医療機器の基板に使う金属が足りない。協力して」などと、東日本大震災をダシにすることもあるようだ。

「押し買い」に遭った女性は、売った時計が夫婦の記念の品だったので、後で惜しくなった。連絡すると、還してくれたので、それほど悪質な業者というわけではないのだろう。
女性は、被害に遭ったという感情も持っていない。
だが、こちらから業者に持ち込むよりも、買い取り価格はずっと安かったはずだ。

これまで、こうした「押し買い」には、法規制はなかった。
だが今年2月21日に、改正特定商取引法が施行され、消費者から依頼のない買い取りを目的にした勧誘は禁じられた。契約から8日間は無条件で解約できるクーリングオフも可能となった。クーリングオフ期間中は物品を業者に渡さず、手元に置いておくこともできる。

貴金属をお持ちの方は、「押し買い」にご注意いただきたい。

(FY)