去る1月5日、当欄で「2018年の注目冤罪裁判」として紹介した名古屋地裁で進行中の小学校教師「強制わいせつ」事件の裁判が佳境を迎えている。去る2月7日には、「被害者」の女児の供述を分析した認知心理学者が証人出廷し、女児の供述の信頼性に疑問を投げかけた。裁判の行方については予断を許さないが、そもそも「強制わいせつ事件」自体が虚構のものであることが心理学的にも裏づけられた格好だ。
◆女児が訴える被害は“偽りの記憶”か
この事件の被告人で、小学校教師だった名古屋市の男性・喜邑(きむら)拓也さん(37)は2016年11月、勤務していた小学校の1年生女児に対する強制わいせつの容疑で逮捕され、2017年1月に起訴された。しかし喜邑さんは一貫して無実を訴え、名古屋地裁で進行中の裁判では、無実を信じる支援者たちが毎回多数傍聴に駆けつける異例の事態になっている。
その理由は、喜邑さんが元々、生徒に人気があり、父兄からの信頼も厚かった教師だったこともある。しかし何より、この事件が冤罪であることを示す事情が散見されることが支援の活発化につながっているのだと思う。
というのも、検察の主張では、喜邑さんは掃除の時間中、教室で「被害者」の女児の服の中に手を入れ、胸を触ったとされているのだが、教室にはその時、約20人の生徒がいながら「喜邑さんの犯行」を目撃した生徒が1人もいないのだ。そもそも、そんな大勢の生徒がいる教室で、教師が女生徒の服の中に手を入れ、胸を触るという犯行に及んだというのも不自然だろう。
そして2月7日、認知心理学者の北神慎司名古屋大学准教授に対する証人尋問が行われたのだが、これにより、そもそも「強制わいせつ事件」は存在しなかったという弁護側の主張が心理学的にも裏づけられることになった。
北神准教授によると、女児の証言には「最初は右の胸を触られたと言っていたのに、2カ月も経ってから触られたのは左胸だったと言い出すなどの不自然な変遷がある」とのこと。喜邑さんのことを「犯人」だという“確証バイアス”を持った母親らが女児に繰り返し質問したことにより、女児が“偽りの記憶”を形成した可能性があるというのだ。
◆判決は3月28日
裁判は今後、2月28日に喜邑さんに対する被告人質問、3月14日に検察官の論告求刑と弁護人の最終弁論などが行われて結審し、3月28日に判決が宣告される予定。担当の安福幸江裁判官が新年度に他の裁判所に異動になる可能性が高いため、年度内に判決が宣告できるように調整し、このような駆け足の日程になった。弁護人の中谷雄二弁護士は、裁判の行方については慎重な見方を示しながらも、「新しい裁判官が被告人質問も聞かずに判決を書くよりは良かった」と語ったが、私もそれは同感だ。
公正な結果が出て欲しいものである。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。