3月19日大阪地裁でM君が提訴した、李信恵ら5人に対する判決が言い渡されたことについては、本コラムですでにお伝えしてきた。判決言い渡し後、判決文を入手したM君、弁護団は即座に「控訴」の意思を固めた。その後M君、弁護団、支援会が協議し、本日(29日)大阪高裁への「控訴」が行われる。
◆李信恵の責任が認められなかったことは被告側の「勝利」なのか?
ただし、まず確認しておかなければならない。地裁判決は事実認定やM君の主張をほとんど取り入れないなど、極めて不当な判断が散見されるものの、決して被告側の「勝利」などではないことである。本訴訟にかかわっている被告側一部の人間は、19日の判決のあと「祝勝会」を開いたり、大仰な「勝利宣言」のような発信をツイッターで行っていると側聞(そくぶん)するが、判決では被告側に総額約80万円の支払いが命じられているのである。さらにはM君を反訴した一部被告の請求はすべて退けられているのだ。これでどこが「勝利」といえるのだろうか。取材班は理解できない。
M君にすれば、少なすぎる賠償額と「掴みかかった」と本人が証言し、「掴みかかった」事実が認定された、李信恵の責任が認められなかったこと(判決では、この不可解な認定を正当化するために判決文38頁のうち、実に5頁を割いている)。凡についての評価も容認できる内容ではなかったことが、もっとも納得のできない部分であり、弁護団、支援会も同様の見解だ。さらには後遺症と暴行の関係を認めない乱暴な判断は到底容認できるものではない。
本訴訟に直接かかわってはいないものの、事件の経緯を知り、判決文を読んだ複数のジャーナリストや法曹関係者からも同様の感想が寄せられている。
◆エル金の暴力を「幇助」したと認定された伊藤大介
いっぽう、伊藤大介については、本人が証人調べで繰り替えし述べたように、M君が殴られて怪我をしているのを知りながら、それでも「友達なんだから話し合うべきだと思い」店の外にM君を出すことを促した行為が「幇助」(ほうじょ)にあたると認定された。刑事では伊藤に捜査や刑罰は及ばなかったが、大阪地裁は「暴力は振るっていないけれども」伊藤がエル金の暴力を「幇助」したと認定したわけで、これは反訴までしていた伊藤にとっては大敗北ではないのか(取材班はこの判断自体は当然と評価する)。
判決についての評価の詳細は、今後の高裁での審理にも影響するので、委細を述べるのは差し控えるが、M君並びに弁護団にとって総体として到底納得のできるものではないことは明らかだ。
そして、このような判決に異を唱えず、納得してしまうことは「長時間にわたり鼻骨骨折し、目が見えなくなるほどの暴行を行っても、民事では80万円払えばよい」という、とんでもない判例を残すことになる。当事者M君が納得できないのは当然であるが、市民感覚からしても到底受け入れられない判決を放置はできない。
◆M君が頑張っている限り、弁護団も支援会も鹿砦社特別取材班も、絶対に諦めない
闘いは第2ラウンドを迎える。しかし、読者諸氏に是非とも伝えたい。判決直後のM君は「報告会」でこれまで支援してくださった(カンパを頂いたり、精神的に支えてくださった)方々への御礼を何度も口にして、本人のツイッターアカウントでも謝辞を述べている。ところが翌日になってM君から取材班に電話がかかってきた。
「きのうは緊張していたし、たくさんの人がいらしたのでそうでもなかったんですが、きょう一人になると、苦しい気持ちになって……」
無理はない。取材班は、「君が頑張っている限り、弁護団も支援会も鹿砦社特別取材班も、絶対に諦めない。いまは苦しいだろうが、ともに試練を乗り越えよう。見ている人はちゃんと見ている」と激励するしかなかった。M君の心中を想像すると、その苦渋は察するに余りある。
控訴にあたっては、また弁護団への着手金の支払いなどが生じる。「M君の裁判を支援する会」(https://twitter.com/m_saiban)では彼の法廷闘争をご支援頂ける方々に、ご協力を呼び掛けている。取材班からもM君救済のために、これまでご支援いただいた方々に御礼申し上げると同時に、今後もさらなるご支援を可能な限りお願いしたい(支援頂いている方の中には何度も何度も繰り返しご送金頂いている方も少なくないと聞く。あくまでもご無理のない範囲で)。支援に頼るばかりではなく、当然M君本人も可能な限り裁判費用を捻出することは言うまでもない。
「対5人裁判」控訴審へさらなるご注目とご支援を!
◎[参考音声]M君リンチ事件の音声記録(『カウンターと暴力の病理』特別付録のリンチ音声記録CDより)