4月14日午後2時半すぎの国会議事堂正門前。10車線の広い道を南北に結ぶ横断歩道に人があふれ、規制しようという警察と小競り合いが始まった。同時に、ガシャーンとあちこちから金属音のようなものが聞こえ始めた。

デモを規制するために警察が設置した金属製の鉄柵が引きずられ、あるいは倒される音だ。柵を乗り越えて人々が車道に出始める。最初の金属音が聞こえて1~2分のうちに車道は人であふれかえった。史上まれに見る政権の腐敗と無責任に対して、市民が怒りを発露した瞬間である。

鉄柵決壊の約15秒後

決壊3分後、議事堂へ向かう人々

4月14日、国政を私物化し、国会で嘘を重ねる安倍政権総辞職をもとめる大集会が国会議事堂前で開催され、約5万人(昼から夜までの延べ人数)が参加した。

集会を主催したのは、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会/未来のための公共/Stand For Truth。午後2時から始まった集会には、3時過ぎ時点の主催者発表で3万人以上が集まった。なお、この日の国会議事堂前集会は、2時から始まった「総がかり」集会、3時30分近くに始まった「未来のための公共」などによる集会、夕方6時からのキャンドルデモ、音楽バンド中心の集会と、4つ集会があった。

森友学園における決裁文書の改ざんが明らかになって以降、この日が最大の集会になった。このほか大阪、仙台、札幌など全国各地で反政府デモが行われた。政党や議員以外の「永田町の外にいる人々」が動き始めている。

嘘つき内閣 今すぐ辞めろ!

◆デモで政権を倒す重要性

森友学園疑惑、加計学園疑惑、自衛隊日報隠蔽、公文書改ざん……。国会は、嘘と隠蔽と開き直りで混乱状態にある。内閣が二つも三つ倒れておかしくない。しかし、かつての派閥の力学やバランスも効かない自民党や公明党が圧倒的多数を占める国会だから、まだ安倍首相は権力の座に居座っていられる。
 
さすがに自民党内でも反安倍やポスト安倍に向けての動きも伝えられている。それらの動きが功を奏してましな政権ができたとしても、これまでの繰り返しであり、日本は変わらない。

そうではなくて、今必要なのは、現在の安倍内閣を一刻も早く終わらせて抜本的な政権交代を実現させ、安倍政権によって奪われた立憲主義・民主主義・市民的自由を奪い返すことだからだ。したがって次の政権交代は、2009年に成立した民主党政権のようなものではなく、自由民権運動以来いまだ実現できない社会を到来させる実質的な市民革命だ。

この見地に立てば、野党共闘だけでは本格政権交代は不可能だろう。野党共闘は必要だが、市民(自覚を持った永田町外の住人)が主導し、自ら政策を打ち出して、立憲野党がその政策と市民を支持する。市民が野党を支持するのではなく逆転させるのだ。その体制が選挙に活かせれば可能性が高まっていく。

そのような情勢を創造するための第一ステップは、市民による街頭行動だ。これが盛り上がらないと、野党も含めた永田町の住人が主導権を持つことになろう。

森友解明&9条改憲NO!

安倍を監獄へ

◆「もうウンザリ」が参加者のキーワード

そんなわけで、デモの現場の雰囲気をしっかり見ておきたいと、集会開始から約10分経った午後2時10分ごろ、私は現場に赴いた。国会議員や有識者のスピーチを遠く聞きながら、人の波をかきわけて周辺を歩き回った。まともに歩けない状態だった。

「安倍を監獄へ」
「モリカケ許さない」
「安倍内閣退陣を」
「安倍ヤメロ」
「嘘つき」
「全部明らかにしてください」
「安倍政権 全員まとめて辞めろ」

この国の膿

さまざまなプラカードが立ち並んでいた。安倍首相の顔写真の上に「この国の膿」としてあるものも。友達どおして参加したひとたちが「もう限界だね」「こんなバカな首相」などと口々に言っているのが、大音量のスピーチの合間に聞こえてくる。

マイクをもった発言者が「一言でいうと、安倍政治を許さない、です」と言ったが、参加者たちの雰囲気は「許さない」というより「うんざり」という表現が合っていた。実際に「うんざり」という言葉を発していた人が何人もいる。

その怒りに輪をかけたのが警察の過剰警備である。石をなげるでもなく棍棒を振り回すわけでもないおとなしい集会にもかかわらず、歩道や車道にバリケード鉄柵を築き、青信号でも法的根拠も示さずに横断歩道を通行させない。

息苦しいほど歩道に詰め込まれ、怒りは募るばかり。何か所でも「道を開けろ」「あたたたちが通行をじゃましている」と警察官に詰め寄る姿が見られた。

昼の集会終了直後の警察バリケード

集会終了後もひとり座り込み

そんなとき、集会の第一部が終わり、若者中心の第二部が始まった直後に「前へ、前へ、前へ、前へ……」という掛け声とともに、人々は車道にあふれ出て、国会周辺が自由な空気に一変したのである。

デモ拡大の恐ろしさをわかっているからこそ権力は過剰に規制するのだ。逆にいえば、市民がやるべきは、集会・デモ・駅頭の街宣など、屋外でのアピール活動で政権交代への社会の空気を醸成することではないだろうか。

そのうえで、遅くとも夏までには市民が重要政策を発表して安倍政権後の未来像を提案。それにもとづいて独自の無所属候補を擁立し、既成野党と協力していく。実は大きなチャンスが訪れているのだ。


◎[参考動画]4・14国会前大行動(UPLAN 三輪祐児さん公開)【動画13分過ぎに鉄柵決壊】

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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