プミポン国王肖像画が掲げられた門の前

ラオスへ向かう準備も整い、前日までにも変化ある日々がありました。その前日にはまたひとつ仕事が入ってしまいます。

◆和尚さんからの思いやり!

12月3日は2日後に備えたプミポン国王誕生日の為、門の前に肖像画飾り付けがありました。毎年この時期はタイ国内、至るところでこんな光景が見られます。和尚さん指示の下、綺麗に差し障り無く飾り付けるよう働かされる比丘達。キチンと建て付けないと見栄っ張りの和尚さんが煩い。そんな合間を狙って、ようやく仕上がったビザ申請書類と手紙持って和尚さんにお願いし、了承のサインを書いて貰います。するとプリントミスに気付く和尚さん。
「ケーオを呼べ!」とデックワットに呼びに行かせ、更なる修正が必要になりました。特に問題ない些細な箇所でも、和尚さんにとっては許せない表記だった様子。
ラオス行きには藤川さんが伴うことや、外国人にとってのビザの必要性を出来る限り、単純なタイ語で書いた手紙を渡し、その場で読んで貰いました。本当に理解されたとは思えない、がしかし、
「ラオス行くならこれ持って行け、あった方がいいだろ!」と束ねたお札を1000バーツほど与えてくれたのでした。有難い配慮に感謝でした。部屋に戻って数えてみると、100バーツ5枚、他、20バーツ紙幣と10バーツ紙幣がいっぱい。計990バーツ。10バーツ足りないのは、縁起を担いだ“9”という数字に拘ったものと推測できました。タイでは9がラッキーナンバーです。もしかして、この前の撮影代のつもりなのかなとも思う。

これで出発7日前に書類を完成。こういう期限ある書類を揃えるにはタイ人を挟むと思いっきり遅くなるのが過去の体験談。「明日でいいものは今日やらなくてもいいだろ!」という気質の国民である。後はのんびり出発を待つだけ。予想より早く進んだこと、皆に感謝でした。

相変わらずの真面目なコップくん、カメラは未知の世界でも興味を示す

◆ケーオさんの人柄

そんなノンビリした平和な中にも、日々変わった出来事が起きています。私がタイで出家することを知っている友達のひとりから届いた郵便物をコップくんが持って来てくれました。中身は「月刊カメラマン」が2冊(2ヶ月分)。私が注文した訳ではなく、印刷関係の運送業をやっている人で、日本でも余りもので手に入る本を持って来てくれる人でした。

そのカメラ雑誌に興味を示すケーオさんとコップくん。幾つかの特集されたカメラに目を付け、「幾らするんだ?」と言われ、「3万バーツ!」と彼ら世代の4ヶ月分以上の給料に相当する値段を言うと、お手上げの表情。そして撮影モデルの雛形あきこが載っているものだから日本の女性にも興味を示します。ムエタイジムに居る時などはひどいものだった。日本の週刊誌のグラビアに、水着の女性タレントが載っていると「幾らだ?」と言い出すボクサーがほとんど。ここでの“幾らだ”というのは「幾ら払えばヤレるんだ!」という意味。

タイの雑誌は女優・タレントが載る場合はキチンとした身なりで、肌を露出した若い女性が載っていれば風俗嬢と思うらしい。勿論一概には言えない話だが。

ケーオさんらはカメラ雑誌と理解した上で「これは誰だ? 日本の女の子はこんなに綺麗なのか?」と笑う程度。

寺で生まれた犬

◆犬も歩けば車に撥ねられる!

そんなケーオさんはまた違った一面を見せる日がありました。寺には野良犬が入って来ることが多い場です。この寺で生まれた犬もいます。どこからか行き着いた犬は片足が折れたままだったり、片目が潰れていたり、やせ細った気の弱い犬もいました。なぜ寺に住み着くのか。それは車が入ってくることは少ない安全地帯。怪我をしている犬はほとんどが車に撥ねられた犬。尚且つ、托鉢から出た残飯にあり付けるからでしょう。しかし、人間の都合で出来た社会など分からない犬は時折、人に殴られるような痛い目に遭うこともしばしば。寺には鶏も放し飼いされており、犬が襲うことも有り得ます。

そんなある日、前片足が無い犬を、棒で可愛そうなほど殴りつけるケーオさん。犬は逃げ、クティの裏側まで来ると、身を隠すように溝に隠れました。ケーオさんは角材を肩に担ぎ、ゆっくり歩いて犬を探し追って来ました。犬はケーオさんに見つかると怯え吠えだす。そこへ角材を振りかざすと、犬は精一杯の威嚇から声が擦れた吠え方に変わる。それは「勘弁してくれ!」と言うような吠え方。犬にも感情があって、人に訴えかけることが出来ると改めて感じ取れる様子でした。

殴ると見せかけて止めると、犬は覚悟を決めたように「キャー!」と言うように喚き、フェイントかけて殴りつけると“ギャイーン”と吠え、溝から逃げ出すところを背中へ更に角材で殴りつける正にイジメ。2階の藤川さんと目があったケーオさんは苦笑いする。この犬は“ここはヤバイ”と寺から逃げ出したか、その後、見かけなくなりました。

過去にもこの犬へのイジメを見たことあるらしい藤川さんは「あの犬はやめといてやれ」と言ったらしいが、ケーオさんは容赦しなかった。ケーオさんは過去に何があったのだろう。頭も良いし優しさもある。しかし捕虜収容所にでも入れられるように家族から出家させられた背景にはやっぱり捻くれた人生があったのだろうか。

どこの寺もこんな怖い感じの犬がたむろする(イメージ画像、この犬は飼われている。撮影は2017年)

◆ラオス行き前日のお仕事!

旅立ちの前日の朝、洗濯中、ある女性信者さんと息子さんらしい中学生ぐらいの男の子が寄って来ました。旦那さんは警察官らしく、息子2人に娘さんも1人いる優しそうな女性でした。

「日本で何やってるの? どうして比丘になったの?」といつものよくある問いかけに、
「日本でカメラマンやっています!」とまたハッタリ込めた話が進むと、私が葬儀を撮影した話をどこかで聞いて来たらしく、そしてこの日行なわれる夜の葬式撮影頼まれてしまいました。読経の出来ない分を撮影で補おうと快く受けると、読経に匹敵する光栄なことだからか、えらい喜びよう。

その夜は約束どおり葬儀を撮りに葬儀場に入り、撮っていたら和尚さんに「椅子に座れ」と促されてしまいました。ちょっと比丘らしからぬ振舞いだったかもしれないと思うも、私は構わず撮り続けたら、和尚さんが挨拶でマイクを持った際、私のことを「日本人だから許してやってくれ!」と言ってるみたいで、親族から少々笑いが起きるお葬式。
「そうそう許してくれ、俺は生臭坊主だから頼まれた仕事は務めさせてくれ」と呟く私。

明日からラオスに向かうので、ここまで撮影した2本のフィルムは、朝会った依頼された女性の旦那さんに渡しました。そして撮影料ではなく、お布施として300バーツを“さりげなく”受取りました。

比丘の旅の必需品、就寝用の傘と蚊帳

◆仏陀のことば!

この日の昼には銀行に行って来た藤川さんに、ラオスの旅に備えて5万円分12500バーツを両替して貰い、「ラオス行ったらどんなところで寝かされるか分からんぞ!」と蚊帳吊るす紐も一緒に渡されました。

旅先では野宿があるかもしれない。戒律厳格な修行寺に泊まるかもしれない。食事出来ない日もあるかもしれない。全く違う方向へ進路転換する事態も起こるかもしれない不安が過ぎると、出家前のように怖気付きます。まだ何も起きてもいない先のことに何をネガティブに嘆いているのか。

これはお釈迦様が説いた愚か者の考え方なのです。未熟者にはそういう不安が過ぎる旅の前日でした。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』