政府及び内閣が先日閣議決定をした出入国管理法および難民認定法の改正にわたくしは再度反対の意を明らかにする。

勘違いされると困るが、わたしは海外からこの国にやって来る人を、「入国させることを困難にさせよう」と主張するのではない。むしろ、海外からこの国に渡航してこようとする方々のハードルは下げるべきであると考える(短期滞在を中心とする来日者にとっての抑圧がない在留資格に限定すれば)。

しかしながら、今般、政府がターゲットにしている方々は、そういった方々ではない。これまで表面上は在留資格にはなかった「期限付き単純労働者」を含む多彩な労働者を人口減で、労働力不足の日本に招き入れようとしている。

労働に携わるのであれば、日本人もしくは日本定住者同等の権利義務が保証され得る状況で労働に従事するという最低限の保障が得られるべきである。しかしその最低限保証は、まず間違いなく海外からの労働者には適用されない。

わたしは外国籍労働者の入国規制緩和に反対はしない。しかし、この度の入管法改正においては、そういった諸権利および入国される方々の待遇が保障され得ない可能性が極めて高いが故に、新たな「奴隷労働」の再来を想起し反対を明確にするものである。

◆無茶苦茶に好き勝手されている労働条件現実を直視すべき

外国人労働者受け入れをする論じる際に、前提として日本人(日本居住者)の労働条件が、使用者側により無茶苦茶に好き勝手されている現実を直視すべきであろう。労組もその過半数が「御用組合」に成り下がり、ろくろく賃上げ交渉や、労働者の権利確保に動きはしない。中には「憲法改正賛成」などと、馬鹿げた決議をする組合まで出てくるありさまだ。

おかしなことに、労組の要求ではなく、首相が経団連に「賃上げをしてくれ」と命じると、大企業は賃上げに応じる。日本人労働者の権利も守れない状態で、より立場の弱い外国人労働者が増加したら、その人たちがどのような仕打ちを受けるか、賢明な読者諸氏においては、想像に難くないであろう。

さらに、なぜわたしがそのような点を指摘するのかと言えば、これまでの在留資格で入国をし、労働に従事した方々のうち、研修生および留学などの在留資格を保持した方々は、極めて劣悪な労働環境で働くことを余儀なくされた。その問題の深刻さが正面から論じられることがなかったからである。だがわたしは経験からその実態を知っている。

そもそも留学などの在留資格を持ち来日し、労働に従事すること自体が、在留資格の本来の目的と在留資格の実態からかけ離れていることは勿論である。今般の大きな政策変更いぜんにも、実態としての「外国人頼み」の業種や商業は既に存在していた。しかしながら、「出入国管理法及び難民認定法」の表面上これまで日本は外国の単純労働力としての流入を頑なに拒んできたという歴史がある。

◆外国人労働者受け入れの条件で格段に不備が多い社会

この度の入管法改正は、一気に単純労働者の取り込み、および今後不足することが想定される職域に置いての外国人労働力労働者の容易な入国を認めるものであるが、その前に一度振り返ってみる必要がある。

外国人労働者でなくとも、日本人労働者は労働に対してそれに見合う対価を得ているであろうか。日本人労働者(正規雇用、非正規雇用を含む)が、このかん空前絶後の好況と言われながら、給与所得の向上は、労働組合の要求ではなく、専ら安倍首相が経団連に向け、給与を上げろというようなことに限り、それ以外の状況では上昇してこなかった事実。これらを俯瞰する時に、日本においては他の労働力受け入れを経験した諸国に比べ、格段に外国人労働力労働者受け入れの条件が不備であると断ぜざるを得ない。

それほど難しい話をしなくとも、少なくとも異文化の人々と一定程度の付き合いをしたひとであれば、今回の判断が如何に短絡的なものであるかご理解いただけるであろう。わたしは過去30年ほどのあいだに、日本の中で外国からこらえた方々数百人と接触してきた。東南アジア、欧米、中東、オセアニア、南米(アフリカ出身の方は少なかった)などの方々と接する中で、嫌でも「体感的」な交流からは逃げられなかった。

日本の社会は変化するし、海外からやってくる方々の母国の様子も変化する。だからわたしの経験は、断定的なものとしてしか語れはしない。けれども「価値観・生活様式の違いは予想をはるかに超える」。このことは断言できる。たとえばインドネシア、ベトナムのひとたちは、「穏やかだから介護や看護に向く」との短絡的な決めつけが聞かれる。そういうことを吹聴するひとたちの頭の中には、インドネシアには数百の民族が居住し、言語文化も多様であり、内戦まがいのいさかいが続いている、あるいはベトナムは米国に戦争で勝利した唯一の国であるとの認識などあるだろうか。

誤解されると困るので、わたしはいずれの国籍・民族の人々にもなんらの偏見を持たないことを明言しておく。ただし、世界には「勘違い」した国や民族が同居していることもまた事実である。

逆説的に論じれば、わたしは海外からの労働者が、日本人と同等に処遇されるのであればそれに反対するものではないが、当の日本人自体が本来獲得できる諸権利および賃金が獲得できない状況で蠢いている中で、それより前提の悪い中でやって来る外国人の方々が、まっとうな生活が送れるとは考え難い。今回の入管法改正策動は、高度成長期に日本が批判された「経済的海外進出」の21世紀版“経済的奴隷労働”の具現化に他ならない。


◎[参考動画]入国管理局が「庁」に格上げへ(ANNnewsCH 2018年7月24日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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