一年の締めの九州場所は、場所の直前に貴ノ岩関が民事公訴を取り下げることで順風万帆の幕開けと思われたが、唯一の日本人横綱・稀瀬里の4連敗休場で盛り上がりを欠いている。白鵬と鶴竜、そして稀瀬里が休場することで、横綱不在の場所となってしまったのだ。元貴乃花部屋力士では、貴ノ岩はいまいちだが、貴景勝が好調だ。このうえは実力伯仲の若手力士がしのぎを削り、万全ではない大関陣を巻き込んだ優勝争いを繰り広げて欲しいものだ。
◆第三者委員会による報告書
ところで、もう先月のことになるが、日本相撲協会が設置した暴力問題再発防止検討委員会が発表した最終報告書には、驚愕の事実が記されていた。この再発防止検討委員会は相撲協会からは独立した第三者委員会である。委員会によると、昨年秋の鳥取巡業での事件の概要が、関係力士たちの証言とともに明らかにされているのでレポートしておこう。
事件が起きたのは、鳥取城北高校の校長の呼びかけによるものだったが、同校のアンバサダーを務める白鵬に、同行とは無関係の日馬富士と鶴竜も同行することで、モンゴル勢の集りになった。やはり最初にモンゴル語で貴ノ岩に説教をはじめたのは白鵬だった。初場所で白鵬に勝った貴ノ岩が「これからは俺たちの時代」と発言していたことに腹を立てての説教である。この段階では、日馬富士が貴ノ岩をかばっていた。
ラウンジでの二次会になってから、白鵬は照ノ富士に対しても日頃の言動をあげつらう。ついには照ノ富士が土下座を強要される事態となった。強要罪は、それを行なったのが暴力団組員なら、即刻逮捕される事件である。白鵬の説教が一段落したと思った貴ノ岩がスマホをいじったところ、日馬富士が「おまえ、大横綱が話をしているのに!」と激昂したのは既報のとおりだ。ここから1.56キログラムのカラオケリモコンで頭部を殴打し、あの無惨な頭部裂傷がもたらされたのだ。
◆白鵬による暴力の是認が明らかに
深刻なのは、事件のきっかけを作った白鵬が何ら反省をしていないことだ。危機管理委員会の事情聴取にさいして、白鵬が「今回の事件は、あえて愛の鞭と呼びたい」と発言していたことだ。ようするに横綱による暴力の是認が明らかなうえに、相撲協会がそれに何らの斯道も行なえず、放置している現状が報告書にまとめられているのだ。最終報告書は「横綱在位が長期に亘ってくると、初心を忘れ、自己の地位に関する過信から相撲道に悖(もと)る言動が頻発した例が、遺憾ながら観察された」としている。
いや、そればかりではない。報告書は大相撲が直面している深刻な事態を結論としているのだ、
◆モンゴル互助会の存在は、貴乃花氏の正しさを立証した
報告書はこう云っている。「相撲部屋に所属力士が、当該部屋以外の別組織との関係において緊密な関係があって別組織の指示・指導等によって行動しなければならないような関係が生じてくると、当該力士は、二律背反の関係が生まれるなど難しい立場に置かれることになり、本来的に期待される行動が取れなくなる危険がある」というのだ。
まわりくどい言い方をしているが、この「別組織」とはモンゴル人力士の集まり、すなわちモンゴル互助会にほかならない。鳥取事件を生起させたモンゴル人力士の集りが、八百長を発生させる危険があると、報告書は指摘しているのだ。繰り返すが、暴力問題再発防止検討委員会第三者委員会である。
事実関係をつかんでいるからこそ、ここまで踏み込んだ報告になったのであろう。まさにこれこそ、元貴乃花親方が危惧していたモンゴル互助会、もはやモンゴル部屋と言うべき実態ではないか。相撲協会が頭を悩ませてきたいわゆる「貴乃花問題」とは、相撲協会にはびこる八百長を告発し、その改革に積極的だった元貴乃花親方の闘いにほかならない。
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)