2019年版『原発いらない ふくしまカレンダー』価格1000円(税込)連絡先 090-9424-7478(黒田)

福島第一原発事故で故郷を根こそぎ奪われた女性たちの有志グループ「原発いらない福島の女たち」は、3・11以後の脱原発運動で大きなうねりをつくってきた。その一人である黒田節子さんが中心となって2013年から毎年「ふくしまカレンダー」(梨の木舎)を制作発行している。最新の2019年版カレンダーの紹介と共に、これまでの6年6作の軌跡を黒田さんに4回に分けて回思回想していただいた。今回はその第4回(最終回)。

◆オキナワとフクシマ

アラフォーならぬアラセブンの女友だちで辺野古のカヌー教室に行ったのは、2017年冬の辺野古だった。沖に出て実際の抗議行動に参加するには一定の技術がないとダメなのだ。詳細をいえば……カヌーをわざと転覆させてから(当然、自らも海へジャボンと落ちる)それをひっくり返して再び乗り込むこと(復帰する)が、初心者には難しいのである。ベテランにいわせると「何でできないの?」となるが、若い人は女性でも数回やればゴーサインが出るのにそこはやはりアラセ。腕力体力も足りない、勘も鈍ったのだろう。なんとかして上がろうとしては何度もカヌーの縁で右腰骨を擦り、帰ってからもしばらくは痛かった。(以上、ウチワの話ですみません)

ところで、私たちはなぜ福島から全国からはるばる沖縄に向かうのだろうか。沖縄のロケーションはその理由の1つとして大きいものがあるのは確かだ。カヌーに揺られて広い海原に漂う感覚はある種の憧れでもある。しかし、それだけじゃないダロと。

沖縄には古い友人がいる。再会を喜び、連れて行ってもらった居酒屋でのこと。「沖縄の闘いはすばらしい。フクシマは学ばなくっちゃいけない。沖縄には希望がある」みたいなことをツルンと口走ったら、「そんな簡単にいわないで欲しい。こっちにはこっちの苦労があるのよ」とやんわり返されたことがあった。

シマッタ。自分の浅はかな言い方にちょっと恥じ入り反省もしたが、でも、でもやっぱり希望があるよ、オキナワには。圧倒的かつ卑劣な国のテコ入れにも負けずデニーさんを見事に当選させたし、なにより、全国から人が馳せ参じる辺野古には、その闘い自体に強く惹かれるものがあるんですよ。それらをもしかして「希望」と言い換えてもいいんじゃないかと思うんですよ。

さて、辺野古を巡っては、翁長前知事は8月31日に埋め立て承認を撤回し、法的根拠を失った国は工事を中断した。その後、県知事選挙で移設反対を訴える玉城デニーさんが当選。新知事が対話を求めている中で政府は工事を再開してしまった(11月1日)。

新軍事基地阻止行動は非暴力で貫かれている。「民意を無視した工事強行は許せない」「辺野古の海を後世に残せ!」ゲート前座り込みは照る日や雨の中で続いている。「1分でも1秒でも」埋立て工事を遅らせるために、カヌーチームは再び懸命にパドルを漕いで海保の暴力に抵抗している。「悲しくて悔しくて何と伝えたら良いのかわかりませんが、でもカヌーに乗らないわけにはいかないのです……」

辺野古(撮影=辺野古ぶるー/2019年版4月より)

◆山形県米沢市・行き場のない避難者たちの闘い

区域外避難者の住宅提供打ち切りから1年半ほど。行き場のない避難者に追い打ちをかける住宅明け渡し訴訟が山形地裁で起こされている。2017年9月、山形県米沢市の雇用促進住宅に住む避難者8家族を被告として、国の外郭団体「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が明け渡しと相当額の支払いを求めて提訴したのだ(住宅管理の「ファースト信託株式会社家賃」が後で参加)。

「訴える矛先は国・東電ダロ!」「避難者を被告にするな」「国と福島県は原発事故避難者の生存権を守れ」などのプラカードを掲げて、地裁前では全国からの支援者が山形市民にアピールしている。原発事故による〝自主避難者〟が訴えられた、別称「雇用促進住宅明け渡し訴訟(米沢追い出し訴訟)」は、まさに人権侵害そのもの。弁護団と支援する会は、国連人権理事会勧告(2017年11月)の尊重を訴えながら、「訴訟を取り下げるよう原告と福島県を指導せよ」との意見書を政府に提出してもいる。

報告集会では、被告代表の方が「私たちが頑張ることで、東京など同じような状況にある人たちが『よし、やれる!』という気持ちになれば、この裁判の意味があると思う」との挨拶をされた。そう、誰しも自分らの利益のためにだけ、ここまで頑張れはしない。「人間の尊厳」という意味を考える。今、日本という国は人間の尊厳と権利を奪い続け、フクシマの命たちを傷つけ続けている。ご注目とご支援をよろしくお願いします。

山形裁判(2019年版6月より)

◆カレンダーを通じて気づいてほしいこと

最後に、今年のカレンダーは「明るいからホッとした」といった感想を複数の友人からもらった。おほめの言葉なのに、これを聞いて実は複雑な気持ちになっているのです。壁や机の上に掛けて1年間眺めるのには、暗くうっとうしいよりも明るい写真の方がいいに決まっている。

それはそうなんだけれど、ご存知のようにフクシマは先が見えない状況にあって、私たちは実は鬱を内在している。山下センセじゃないけれど、真面目に考え続けていたらまず精神がもたないに違いない。さらに語弊を恐れずにいうなら、ある意味ごまかしながら私たちは福島で日々を暮らしているわけです。確かに、明るさは人を呼ぶ。しかし今のフクシマで「明るく!」という注文は、かなり複雑な思いをさせることでもあるのを、少しは分かって欲しいんです。

ここでまたオキナワを思い出す。苦難の歴史と現在がありながら、歌や踊りが出る闘い、そして何度でも立ち上がる。はたしてフクシマにそのようなことが可能な日がやってくるのだろうか。「原発=核の災害はこれまでの世界を変えてしまった。新しい世界が始まってしまった」と表現したのは、ロシアのスベトラーナ・アレクシエービッチ。新しい世界、つまり新しい苦悩が始まってしまったと予感するのは、なにもノーベル賞作家だけではない。フクシマは、たち打ちできるのだろうか。(了)

黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
『原発いらない ふくしまカレンダー』連絡先
ふくしまカレンダー制作チーム 
090-9424-7478(黒田) 070-5559-2512(青山)
梨の木舎 メール info@nashinoki-sha.com
FAX 03-6256-9518

2019年版『原発いらない ふくしまカレンダー』
価格1000円(税込)

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

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