◆日本のメディアの脳天気な戸惑い
自衛隊哨戒機への火砲レーダー照射問題、および徴用工の補償問題・慰安婦補償問題が「政治問題」化するなかで、日本のメディアは的はずれな「戸惑い」に明け暮れている。いわく、レーダー照射は「友好国」とは思えない行為だ。いわく、徴用工と慰安婦問題の請求権は日韓基本条約で解決したはずで、いまさら蒸し返すのは韓国が国家の体をなしていないからだと。
◎[参考動画]【報ステ】レーダー照射で泥沼化 水面下の協議は(ANNnewsCH 2019/01/07公開)
国家の体をなしていないというのは事実だが、第三共和国(朴正熙政権)時代と第六共和国以降の現政権に連続性がないという意味でなら正しい。この共和国の違いを、日本政府もマスメディアも一向に理解しようとしない。革命前の旧政権の外交政策を、新しい革命政権が否定している。それだけの話であって、国際社会がそれを理解しようがしまいが、当該国家と国民は一向にかまわない、と言っているのだ。政権をうしなった前大統領をことごとく逮捕し、あるいは死に追いやる国家・国民性である。政権交代はすなわち、革命なのである。実際に、現文在寅政権は光州蜂起を体験した人々である。
それ以上に、韓国政府はともかく(表向きは)としても、韓国国民は日本を「友好国」とは思っていない。個人的に日本文化が好きだとか、日本に旅行してみてその親切な国民性に感激したとか、そういう感想をもつ韓国人はおそらく国民の大多数を占めることだろう。だがそれは個人の感想としてであって、総体としての韓国国民は日本を忌み嫌っている。
いや、正確にいえば「日本」という言葉ほど、かれらに対抗心を煽るものはないのだ。併合された屈辱の歴史がある以上、日本との真の友好などありえないのだ。はやく北韓と統一して、その国力をもって日本に対抗したい。大韓民族として日本人に勝ちたい。それはスポーツといわず文化といわず、もちろん軍備においても経済力においても、何ひとつ残らず日本に勝ちたい。それが韓国人(朝鮮民族)のメンタリティなのである。ほかならぬ日韓の歴史がつくってきたものなのだから、それは歴史をなかったことに出来ない以上、仕方がないのである。韓流が好きだからとか、韓国人も日本のアニメや漫画が好きだからとか、友好的な気分でいるのは穏和的な日本人だけである。
◎[参考動画]年始から日韓関係に波紋!?文大統領が“日本批判”(ANNnewsCH 2019/01/10公開)
◆韓国政界はどうなっているのか
韓国の政治について、日本の政治家もメディアもほとんど関心がない。現在の与党の名称(共に民主党)、朴槿恵前大統領の前政権が自由韓国党で旧セヌリ(ハンナラ)党であることも、おそらくワイド番組のMCたちは知らないであろう。韓国国会は30近い政党が国会の議席を占め、正義党や民衆党、北朝鮮を支持する政党(法律により強制解散)などの左派政党から中道右派の正しい未来党、さらには極右(大韓愛国党)まで、幅ひろい党派が乱立している。院外では第四インター系のグループも労働運動に影響力を持っている。
さらには、慶尚道を支持基盤とするのが保守系で、全羅道を支持基盤とするのが左派、忠清道を地盤とするのが中道保守であることも、韓国政界をいっそう複雑怪奇なものにしている。そして、われわれ日本人が保守はナショナリズム、左派はインターナショナリズムと考えがちなところ、韓国ではそうではないのだ。保守系の朴槿恵前大統領が親日派でありながら、ついに日韓首脳会談を実現できなかったように、右派だからとか左派だからとかで日韓関係が解決できるものではない。
◎[参考動画]徴用工問題やレーダー照射 韓国への強硬論相次ぐ(ANNnewsCH 2019/01/11公開)
◆日韓条約そのものに問題があった
そもそも日韓基本条約(1965年)は、日韓併合条約(1910年)を武力による威嚇であるから正当な条約ではないとする韓国の立場と、国際法上正当な条約であるとする日本側が譲らないまま結ばれたものだ。その歴史認識の違いにもかかわらず、韓国は支援金として日本側に経済援助をもとめ、日本側は賠償権を放棄したものと理解したのである。無償3億ドル、有償2億ドルの経済援助だった。この条約締結は言うまでもなく、アメリカの要請であった。
当時の朴正煕大統領は元日本軍将校でもあった親日家で、しかも反共産主義の軍事独裁政権である。このような時代的な制約のある2つの条約をめぐって、日韓両国政府はそもそも初めから一致していないのである。したがって、韓国の裁判所が個人の請求権を合法と判断したのにも理由がある。法理的には賠償権を放棄していないのだから──。
今回の自衛隊機レーダー照射事件は、偶然起きたわけではないはずだ。自衛隊の旭日旗を忌避するがために、自衛隊艦隊は韓国軍の演習に参加しなかったではないか。識別旗を認めない国の軍艦が「友好国」であろうはずがない。かれらは常に、自衛隊機の反応を測っているのだ。だとしたら、かくなる擬制の友好国とはまったくテーブルを一緒にできないという認識から出発して、友好条約の締結のために議論を始めるべきではないだろうか。思い違いがいちばん危険なのだ。
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)