平均寿命が延び、高齢の親御さんやご親戚家族の健康について、悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。私自身、予期もせず元気で健康、快活だった母の言動に異変を感じたのは数年前のことでした。そして以降だんだんと認知症の症状が見受けられるようになりました。今も独り暮らしを続ける89歳の母、民江さん。母にまつわる様々な出来事と娘の思いを一人語りでお伝えしてゆきます。同じような困難を抱えている方々に伝わりますように。
母は週に5日デイサービスに通い、デイサービスに行かない日には私が身の回りの手助けをするために通っていますが、衛生面や安全面において危険を感じることがあります。先々のことを考えなくてはならない時期がきたようです。
私はケアマネージャーYさんへ相談に行きました。小さな調剤薬局の薬剤師さんで、民江さんとのお付き合いは20年以上、性格から日々の習慣、現在の状態までよく把握してくださっている方です。まず私が、一緒に住むことは難しいと打ち明けると、「夏さんのご自宅に引き取るよりも、お世話は専門の方々にお任せして、ご家族はいつも笑顔で接してあげる方がいいんじゃないでしょうか」と。気持ちが軽くなったというか、安心したというか、罪悪感が減ったというか、そんな感じでした。
そして、グループホームというものを勧められました。「この近くにいくつかありますから、見学に行ってみるといいですよ」と。グループホーム? 確かに最近住宅街で見かけるようになったけれど、どんなもの? 自分で探して問い合わせるの? 私はインターネットで介護サービスについて調べました。
いろいろな種類のサービスや施設がある中、グループホームとは、重い病気のない認知症の人に特化した施設であることがわかりました。スタッフの介助を受けながら、9人が1ユニットで、各々ができる範囲で役割を持ち、共同生活をするようです。費用は介護度が高くなるほど上がりますが、入れないほど高額ではなさそうです。民江さんは内科的疾患はありませんので、これはなかなかよさそうです。
役所の福祉窓口へも相談に行ってみました。そこではいくつか提案をされましたが、私が興味を持ったのは「小規模多機能型居宅介護」というものでした。それは、通いのデイサービスと、宿泊するショートステイと、自宅へ来てもらう訪問サービスを一カ所が請け負っているために、組み合わせて利用することが容易で、しかもグループホームを併設している所もあります。『通い』『泊まり』『訪問』のスタッフが同じというのが魅力的です。『通い』で慣れてきたら『訪問』や『宿泊』を挟み込み、『宿泊』の延長で『グループホーム』へ移行できれば、精神的な負担が少ないかもしれません。
場所を、民江さんの家のなるべく近くで私の家の方向に絞り、グループホームとグループホームを併設している小規模多機能へ下見に行くことにしました。もちろん姉妹も誘って。
全部で7カ所、共通していたのは、グループホームは「お風呂は毎日入らない」ということでした。デイサービスは入浴がメインと言っていいかもしれません。毎回介助していただいて安全に入浴し、昼食を頂き、全員で日替わりのリクリエーションゲームをし、ぬり絵や漢字ドリルをして、おやつを食べて帰ってきます。
一方、どこのグループホームも、お風呂は週に2回か3回だそうです。洗濯物を干したりたたんだり、ごはんの準備を一緒にすることもあれば、お散歩でお買い物に行くこともあり、そういう日常生活の場がグループホームのようです。と言っても、実際に洗濯物をたたんだり、掃除をしている姿などを見たわけではないので、実態はわかりません。
何より、施設によって随分と特徴がありましたので、実際に見に行ってよかったと思っています。しんと静まり返ったきれいな施設もあれば、地域密着型でカフェ(認知症カフェと言い、食堂のような所にご近所さんがお茶を飲みに来る)を併設し、人の出入りが多い賑やかな施設もありました。物が多くて雑然としている施設、重度な方が多く目につく施設、介護度によって居住階を区別している施設もありました。看取りまでを謳う施設と、自立歩行ができなくなったら退所しなければいけないというルールを設けている施設もありました。
さあ、民江さんにとって、何処が一番いいでしょう。重度な方に囲まれるのは辛いかも。室内犬は嫌いかも。静かすぎるのは寂しいかも。スタッフさんとボランティアさんと遊びに来るご近所さんと、大勢いたら混乱してしまうかも。
現在どこも満員で、複数の施設に申し込む方が多いと聞きましたが、幸い民江さんは急いでいません。一番きれいで、ゆったりしていて、自立歩行ができなくなったら隣接の特別養護老人ホームに移動ができて、費用も中程度、介護福祉事業で30年以上実績のあるTグループホームだけに入所申し込みをしました。待機の方が数名いらっしゃるそうなので、順番が回ってくるのは1年後か、2年後か。それまでにタイミングを見計らって民江さんに話をすればいいわけです。キープをしつつ難しいことは先送りし、私にとっては都合のいい形で、とりあえず一段落しました。ケアマネージャーYさんに相談してから8カ月が過ぎた夏のことでした。
▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付く