昨年9月の自民党総裁選挙では、石破茂が大半の予想をくつがえして地方票の45%を獲得する善戦をみせた。議員投票をあわせると、わずか20名の石破派が254票を獲得し、他の5派にささえられた安倍晋三を脅かした。
総得票率でいえば、安倍晋三553、石破254と、31%の党員・国会議員が石破を支持したことになる。かさねて言うが、404名中、石破派はわずか20名である。安倍総理の出身母体である細田派が99名、麻生派56名、竹下派56名、岸田派48名、二階派44名、石原派12名、谷垣グループ16名、無派閥が55名である。その意味では、前々回の総裁選で地方票では多数派を占めた石破茂氏は、ポスト安倍の筆頭という言い方もできないではない。
◆石破派を排除するメッセージか?
ところで、石破派をのぞく6派閥の事務総長が総理公邸に集まったと報じられた。それも5カ月前の総裁選の祝勝会だというのだ。この時期に「祝勝会」とは、何とも意味ありげではないか。この会合で何が話し合われたのかは定かではないが、わざわざ公邸の裏口から入ることでマスコミのチェックを避けている。つまり秘密会合だったのだが、総理官邸・公邸での秘密会合とはすなわち「コソコソと政治工作をしているぞ」という政局を印象づけることにほかならない。マスコミが嗅ぎつけることを想定したうえ、わざと秘密めいたことをしたぞと、耳目を集めるのである。
ここで安倍総理周辺が流したかったのは、参院選および同時に行なわれるかもしれない総選挙において、石破派を排除するというメッセージにほかならない。いささか当方の深読みながら、このメッセージは「党中央に逆らう者は徹底的に排除する」というものであろう。思い出してほしい。自民党内では女性総理候補ナンバーワンと言われる野田聖子の総裁選出馬(推薦人20人が必要)を封じたのも官邸だった。
こうした政治手法は、旧来の自民党にはないものだった。自民党はもともと政治理念ではなく、権力の利権をつうじた利害結合体だが、親分子分の絆によって求心力を維持してきた。そのことは派閥をこえた寛容な体質が、戦後保守政治をある意味では文化として体現されてきた。総裁選が終われば、ラグビーのノーサイドのような雰囲気で、なおかつ清濁併せ呑む気風に支配されてきた。ところが、安倍政権になっていらい、その自由闊達な気風は排除されてきた。
◆政敵を徹底的にイジメる、ファシスト的な手法
ヒトラーが金融独占資本およびドイツ鉄鋼資本との蜜月を深め、国防軍を掌握するさいに、内部の政敵を排除したことを想起してみるといい。ヒトラーはナチス突撃隊のレームを「長いナイフの夜」によって粛清し、党の支配権を確立するとともに、国防軍と突撃隊の対立を暴力的に止揚したのである。銃剣によるものではないが、そんな粛清劇が自民党で行なわれる可能性があるのだ。
小選挙区(擁立者1人)への党公認という伝家の宝刀を使いまくることで、他派閥を従属させ、批判をゆるさない安倍晋三の政治手法は、まさにヒトラーの独裁方法に近いものがある。そしてヒトラーよりもいっそう陰湿な感じがする。
女房役の菅官房長官もまた、官邸記者クラブに望月衣塑子記者(東京新聞)の排除を申し入れるなど、陰湿な独裁者としての素顔を剥き出しにしている。独裁(ヘゲモニー)とは、圧倒的な被支配者の指示によって成立する(アントニオ・グラムシ)政体である。いまやわれわれは自民党の党内政治、政局にも警鐘を鳴らす必要がある。
◎[参考動画]【自民党総裁選】投開票ならびに両院議員総会(2018.9.20)
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)