殺人事件の現場というのは、そうだと知らなければ、何の変哲もない場所や建物にしか見えない場合がほとんど。そんな中、いかにも殺人現場らしい不穏な雰囲気を漂わせていた場所もある。

たとえば、2011~2012年頃に話題になった尼崎連続変死事件の現場がそれである。

◆灰色にくすんだ街並み

事件の発覚は2011年の秋だった。主犯と言われる角田美代子(当時63)らに監禁されていた女性が警察に駆け込んだのをきっかけに、尼崎市の貸し倉庫から女性の母親の遺体が発見された。さらに翌年10月には、平屋建ての民家の床下から3遺体が見つかり、大量変死事件として騒がれた。

美代子は複数の家族と同居し、虐待や殺人を繰り返していたとみられ、死者・失踪者は10人を超すと伝えられる。逮捕された美代子が留置場で自殺し、事件の全容解明は困難になったが、共犯者らの裁判では、髪をバーナーで焼いたり、タバコの火を押しつけるなどの凄惨な犯行が明るみになっているという。

筆者がこのおぞましい事件の現場に足を運んだのは、2015年の初夏のことだ。最寄り駅の阪神電車・杭瀬駅に降り立ち、関係現場を訪ねて回った。そしてまず感じたのは、街並みが灰色にくすみ、いかにも怪事件の現場らしい雰囲気だということだ。こういうことは珍しい。

◆3遺体が見つかった民家は更地に

そして駅から歩くこと数分で、3人の遺体が発見された平屋建ての民家があった場所に到着した。が、問題の家はすでにない。家の建物は跡形もなく取り壊され、更地になっていたためだ。

3遺体が見つかった民家は取り壊され、更地に

ただ、隣家のトタンの外壁が何やら異様な雰囲気を醸し出している。ふと見ると、更地に衣装ケースが置かれているが、それもまた不気味に見える。フタをあけると、ゴルフシューズなどが詰め込まれていたが、なぜ、こんなに場所にこんな物が・・・・・・と不思議な思いにさせられた。

一方、ベランダに「監禁部屋」と呼ばれるプレハブ小屋があった美代子宅のマンションは、この更地から歩いて数分の場所にある。

マンションから出てきた住人の男性に話を聞かせてもらおうと思い、話しかけたが、「その事件ならここやけど、話すことはないで」と冷たくあしらわれた。マンションの他の住民たちにとって、あのおぞましい事件はもう思い出したくないことなのだろう。

最上階に暮らしていた美代子宅を見上げると、ベランダの「監禁部屋」は撤去されていた。ただ、この強烈過ぎる事故物件に、他の誰かが再び暮らすことは無さそうに思われた。

最上階の左端がかつての美代子宅。ベランダの「監禁部屋」は撤去されていた

◆ドラム缶の遺体があった貸し倉庫も不気味な雰囲気

このマンションからさらに徒歩で数分の場所には、もう1つの遺体発見場所である貸し倉庫があった。この倉庫は、公園のすぐそばにあったが、外壁は錆びたトタンと黒ずんだコンクリートで、いかにも不気味な雰囲気だ。

現場の1つである貸し倉庫。遺体がドラム缶にコンクリート詰めされた状態で見つかった

この倉庫では、警察に駆け込んだ女性の母親の遺体が、ドラム缶でコンクリート詰めにされた状態で見つかったと報じられたが、いかにもそういうことがありそうな場所に思われた。

街を歩いてわかったことだが、この界隈はトタンの建物が非常に多く、街全体が時代の流れから取り残されているような印象だった。この街で暮らす人たちには失礼な言い方だが、尼崎連続不審死事件はこういう街だからこそ起きた事件だったような気がしてならなかった。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。新刊『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)が発売中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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