今年も南氷洋に夏が訪れ、水産庁、鯨研が送り込む日の丸「チョーサ」捕鯨船団とシーシェパードのおいつおわれつの攻防が始まった。捕鯨船に「Research」という文字を大書きし、水産庁や鯨研は捕鯨が「科学的な調査」のためだと強弁するが、科学に名を借りた国営商業捕鯨であることは世界中が承知している。退却を「転進」と言いくるめた過去が思い出される。
水産庁/鯨研は11月に成立した第三次補正予算で「チョーサ」捕鯨名目で23億円の追加が認められ、当初の7億とあわせると、なんと例年の3倍から6倍の予算を獲得し、カネはふんだんにある。今年は水産庁の監視船も船団に加わり、「海賊行為」「テロ行為」を取り締まる体制だ。
一方のシーシェパード側は今年のクジラ防衛戦を「神風(Devine
Wind)作戦」と呼び、旗艦スティーブ・アーウィン(SI)号、ボブ・バーカー(BB)号と高速船ブリジット・バルドー(BB)号の3隻に加え、無人偵察機を導入し、昨年同様、捕鯨船団の母船の日新丸を追尾し、捕った鯨の受け渡しを徹底的に妨害する構えだ。
すでに昨年12月25日、SS側は無人偵察機により日新丸の位置を確認。目標の2割程度に終わった昨年同様、今年も目標を大きく下回る数のクジラしかチョーサできないものと早くも危ぶまれていたが、SS側の追跡が荒れ狂う南氷洋に阻まれ、遅れている。船体にひびが入った高速船BBを修理するため、旗艦のSI号は日新丸の追尾を中止し西オーストラリア州のフリマントルに航行中だ。そのSI号には第二昭南丸がぴったりと張り付いているそうだ。
「こっちは腐ったバター(酪酸)を投げるのが精一杯だってのに、向こうは武装した保安官を乗せているんだぜ」とSSのポール・ワトソン代表はオーストラリアのメディアに語っている。海上保安庁から派遣される保安官が捕鯨船などに乗り込むのは2007年と昨年に続き3回目。海保は人数や装備の詳細は明らかにしていないが、今回は「過去最大の規模」だと言う。
緊張が高まってはいるが、オーストラリア政府は野党の南氷洋への監視船の派遣要求を退け、両者に自制を呼びかけるにとどまっている。南氷洋で事故があれば救出の義務を負うオーストラリアやニュージーランドの世論は、日本が復興予算を「チョーサ」捕鯨に振り向けたニュースを受け、これまで以上に厳しいものになっている。
震災、津波、そしてフクシマが未だ収束しない状況で、なぜ、これほどの予算をチョーサにつぎ込むのか。それだけのカネがあれば、食品の放射能を計測する器械を全国の学校や寿司屋、魚屋や八百屋に配置できるんじゃないか。海に放射能を垂れ流すのをやめるためにカネを使うべきじゃないか。そんな声も聞こえてくる。
その疑問に明快に答えてくれるのは元水産官僚で、捕鯨スポークスマン時代はとんちんかんな発言で国際社会の爆笑や嘲笑をかった小松正之政策研究大学院大学教授。
小松の説明を聞くと「チョーサ」が何のために行われるのかはっきり見えてくる。フクシマのおかげで、安全安心な水産食料の調達がむずかしくなった。まだ汚れてない南氷洋のクジラを食べるのは理にかなっている。震災で東北の人の雇用がなくなったから、南氷洋で捕鯨をやろう。過激派やテロリストが邪魔をするなら軍を派遣して、しょっぴいてきて、日本の法律のもとで裁いてやれ。
1930年代に満州に出かけた時とほとんど変わらないロジックだ。
小松は「チョーサ」の理由に世界的な食糧供給の逼迫も持ち出す。ピークオイルには言及してないが、畜肉生産にはエネルギーがかかる、クジラはエネルギーをかけなくて収穫できる、なんてことも「チョーサ」を正当化する理由に挙げている。だから、クジラを食べるのは環境にもいい。持続可能な未来食であると結論する。
この発言を聞いて思い出すのは、フクシマ後に東電顧問に返り咲いた加納時男が参議院議員時代に行った数々の発言だ。原発ヨイショのために気候変動とピーク・オイルを持ち出していた。あたかも、原発がすべての問題に効く万能薬、特効薬でもあるかのように。どちらも、ためにする議論でしかない。最初に捕鯨ありき。最初に原発ありき。自らの目的を正当化するためだけに、人類が直面する様々な難題を持ち出し、あたかもそれが解決策であるかのように言うところは、まったく同じだ。
クジラ肉の在庫はだぶついている。捕鯨は水産官僚の天下り先になっているという指摘もある。
国難に面したいまこそ、百害あって一利無しの「チョーサ」に巨額の税金をつぎ込むのをやめ、仕分けのメスを入れるべきではないか。メンツにこだわらず、甘い汁を吸い続ける水産官僚をバッサリ切る時ではないか。荒れ狂う南氷洋で人身事故が起こる前に英断を下すことが急務だ。
(RT)