死刑は怖いですか──。私が過去、死刑判決を受けた殺人犯に面会した際にしばしば試みた質問だ。そんな中、もっとも変わった答えをしたのが、小泉毅(57)だった。

「死刑がまったく怖くないと言えば、嘘になります。しかし、私は生まれ変われると思っているんですよ」

2013年の春、東京拘置所の面会室でのことだ。そう語る小泉の穏やかな笑顔が今も忘れられない。

◆殺人動機は「愛犬のかたき討ち」

小泉は2008年11月、埼玉と東京で旧厚生省の事務次官経験者の自宅2軒を相次いで襲撃し、2人を刺殺、1人に重傷を負わせた。そしてほどなく警察に自首すると、「子供の頃に保健所で殺処分にされたチロ(飼い犬)のかたき討ちだった」と意外過ぎる犯行動機を告白し、世間を驚かせた。

私が面会に通うようになった頃、小泉は最高裁に上告中だったが、すでに一、二審共に死刑判決を受けていた。報道では、小泉は坊主頭で、無精ひげを生やし、武骨そうな男に思えたが、実際の小泉は小柄で、色白のおとなしそうな男だった。

事件が起きた当時、「なぜ、愛犬のかたき討ちで旧厚生省の事務次官経験者を狙ったのか」と訝る声もあったが、小泉は「保健所を管轄するのが厚生省(現・厚生労働省)だから、そのトップを狙ったんです」と理路整然と説明した。精神障害の疑いは無さそうだった。

そんな小泉は、裁判でも「私が殺したのは、人間ではなくマモノです」と述べて無罪を主張するなど、死刑を本気で回避しようとする様子は皆無。その理由が、「生まれ変われる」と思っているからだったのだ。

◆生まれ変われると思う根拠は「超ひも理論」

では、生まれ変われると思う根拠とは?

小泉は「物理学の『超ひも理論』に基づく考えなんですよ」と言い、後日、手紙でこう解説してくれた。

小泉から届いた2013年5月5日消印の手紙

〈我々1人1人の存在、分子1つ1つの存在、原子1コ1コの存在、クォークやレプトン1コ1コの存在は、我々の住む宇宙よりもはるかに大きなもの、即ち、我々の宇宙が漂っている無限に広がる次元という大きな海の中のどこかに常に記録されていると、私は考えています。だから、この記録されているものを我々の宇宙にダウンロードすれば、私は生まれ変わることができるのです!〉(2013年5月5日消印の手紙より)

学生時代に理科が苦手だった私には理解不能だったが、小泉は国立の佐賀大学理学部で学んだ秀才だ。それなりの科学的根拠がある話なのだろう。

「死刑になっても生まれ変わり、またマモノを殺します」と語っていた小泉は、その後、死刑が確定したが、今も死刑執行されず、東京拘置所に収容されている。

小泉が収容されている東京拘置所

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。新刊『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)が発売中。

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