この原稿は、なにがめでたいのか知らないが、聞いたこともない「10連休」をまだかなり先に、見据えながら書いている。4月29日、つまりきょうは「昭和の日」とされている。1989年(昭和天皇が死去した年)のカレンダーにはこの日が「天皇誕生日」として休日とされていたはずだ。

昭和天皇は長く病を患い死去したので、追悼からアキヒトが天皇即位との流れは、今次の騒ぎと同じではなく、いくぶんの静寂もなくはなかった。それが2019年のきょう、どうであろうか。どうであるかは、本稿執筆時には予想でしかないけれども、おそらくは、またしてもこの島国に住む主流とされるひとびと、多数派は、バカ騒ぎに明け暮れているであろう。


◎[参考動画]昭和天皇 戦争終結 「これ以上戦争を続けることは非常に…」と米記者に

◆「ありがとう平成」というイデオロギー

「ありがとう平成」

この、まったくもって不可思議で、「だれがなにに対して」感謝しているのかもがわからない文言が町や紙面にあふれている。日本語は主語を明示しなくとも意味が通じるから、「腹芸」や「阿吽の呼吸」が生れるのだと主張する人がいるが、わたしは違うと思う。

文章の主体(課題)や責任主体をあいまいにしたがる性癖こそ(それを「和」と呼ぶひとびともいるが)が、曖昧な文章がまかり通る文化土壌を形成しているのではないか。そこで、誰も言わないからわたしが「ありがとう平成」を、正しく言い換えよう。

「ありがとう平成天皇陛下様!」

これ以外に解釈が可能だろうか。あるいはもっと気楽に何も考えず、毎年の暮れと正月の祝いのように「あけましておめでとうございます」程度の軽い挨拶だと思い、感じている人が少なくないであろうことは想像の範囲内だ。しかし、いろいろあったがなんとか年を越すことができた。来るべき年が良い年でありますように、と念じることには、なんのイデオロギーも支配構造も反映はされていない。単純に年始を祝う気持ちに邪悪さはない。

◆本当に「平成は戦争のない時代だった」のか?

「あけましておめでとうございます」と「ありがとう平成」はともに何らかの祝意を現していて、共通する「なにか」がありそうに勘違いされるやもしれないが、両者は天と地ほど違う。退位を控えてアキヒトはどこに赴いたのか。昭和天皇の墓はともかく、伊勢神宮にまで足を延ばしたことは必ず記憶されなければならない。

その他もっぱら「神話」にしか由来のない、数々の「神事」を大手メディアでは、何の疑問や批判も受けずこなしている。アキヒトは「平成は戦争のない時代だった」といった。ほんとうにそうだろうか。

航空自衛隊がイラクに派遣された問題が、名古屋高裁で違憲と判断されたのは、2008年4月17日だった。イラク、サマーワに派遣された第1次イラク復興業務支援隊の佐藤正久(責任者)は、その後自民党の国会議員となり、強行採決の際には暴力装置として、平時は軍国主義思想の布教に余念がない。初代防衛大臣久間章生は、防衛大臣退任後、右翼関係者の集会に参加する姿が数多く確認されている。サマーワに派遣された自衛官には自殺者が相次いだ。

そして南スーダンに派遣された自衛隊は、PKOと言いながら、実際は戦闘地帯だったことが判明した。しかもそのことを記した日報が紛失しているという、考えられないようなおまけまでついている。時の防衛大臣は稲田朋美である。南スーダン視察に訪れるも、わずか8時間の滞在で引き揚げ「安全だった」とのたまった、この極右議員はまいまだに落選していない。防衛費=軍事費はこのデフレ不況のなか、毎年5兆円を超えている。軍事費だけが聖域のように毎年増額されている。

なにが平和だ? どこが平和だ?


◎[参考動画]日本ニュース戦後編 第105号 だれが戦争責任者か 東京裁判

◆本当に「安倍の暴走を天皇は批判している」のか?

優しい心を持つ人の中には、「安倍の暴走を天皇は批判しているんだ」と主張される方々がいるが、わたしは「そうかなぁ、まったくそうとは思えないな」としか言えない。そういう優しさ(勘違い)がどこからどう見ても「差別の元凶」でしかない「天皇制」護持の一翼をになっているのだろう。かく語る方々の中には、いわゆる左翼やリベラルを自称されるかたも多いのだ。

わたしは、天皇の代替わりに何の興味もない。ただし、ここまでだれもかれもが浮かれて、「なにがめでたい」のかもわからずに「めでたがっている」光景は、その背中でとわたしのような考えのひとびとが「非国民」となじられているいるようにも思える(勘違いか)。非常に危険だと思うし、危険水域にはとうの昔に足を踏み入れてしまているのだ。

ご存知であろうか。「元号」(あるいはそれに類似した「時代に名前を付ける」習慣)をもっているのは世界中で「日本国」だけであることを。それは「誇らしい」ことなのか、「美徳」なのか、「世界に誇れる」ことなのだろうか。わたしは「どうしようもない時代遅れ」としか感じない。


◎[参考動画]【HISTORY CHANNEL】天皇陛下・マッカーサー会談 “終戦のエンペラー”

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

創業50周年!タブーなき言論を!『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)