和歌山県紀の川市で4年前、小学5年生の男の子・森田都史くん(当時11)が殺害された事件で、7月16日、被告人の中村桜洲(26)に対する2度目の判決が大阪高裁で宣告される。
裁判員裁判だった和歌山地裁の第一審では、中村は2017年3月、懲役16年の判決を受けている。この時には「刑が軽すぎる!」と批判の声も上がったが、中村は実際、どんな人物なのか。
大阪拘置所で面会したところ、中村は、私がこれまでに会ったどの殺人犯とも異なるタイプだった。
◆逮捕時の報道とは、別人のような風貌に
逮捕された際、警察車両で連行される中村の画像は今もインターネット上に多数流布している。その画像では、中村は坊主頭で、怒ったように頬を膨らませ、いかにも異様な雰囲気だ。
今年2月21日、大阪拘置所の面会室で私が向かい合った中村は、この逮捕当初の画像とは、別人のような風貌になっていた。髪は長く伸び、黒縁めがねの奥の両目はあどけない。グレーのスウェットのズボンの中に、青いトレーナーのスソを入れて着たスタイルは小学生のようだった。
なんとも幼い感じだな・・・それが、私が中村に抱いた第一印象だった。
◆面会室では最初、ニコニコしていたが・・・
第一審判決やそれまでの報道によると、和歌山県紀の川市で暮らしていた中村は、2015年2月5日、自宅近くの空き地で森田くんをナタのような刃物で刺殺。逮捕後、動機について「からかわれたからやった」と供述していたが、無職でひきこもりの中村は元々、自宅の庭でゴーグルをかけ、木刀を振り回すなどの奇行癖があったという。
案の定、裁判では精神鑑定が争点に。裁判員裁判だった和歌山地裁の第一審では、精神鑑定の結果に基づいて、中村は犯行時に統合失調症か、被害妄想による心神耗弱状態で責任能力が限定的だったと判断された。そのために量刑が懲役16年(検察の求刑は懲役25年)にとどまったのだ。
面会してみると、中村が幼いのは見た目だけではなかった。何がうれしいのか、刑務官と一緒に面会室に現れた時から、ずっとニコニコしているのだ。
しかし、私が「逮捕された時、なぜ怒ったような表情をしていたのですか」と質問すると、中村は態度を豹変させた。「あれは、怒っていたんじゃないです」と言い、急に不機嫌そうな表情になったのだ。
「怒っていたのではないなら、なぜ頬を膨らませていたのですか?」と私が重ねて質しても、中村は何も答えず、右手の人差し指で頬をポリポリと掻き始めた。そしてうつむくと、私のほうを見ずに「なんとなくです」とだけ言った。
◆中身も幼い
それ以降は私が何を聞いても、中村は無言で、右手の人差し指で右ヒザの上に何かメモするような仕草をしつつ、私のほうを一切見ようとしなかった。そして結局、刑務官に「もういいです」といい、面会制限時間がくるよりはるか前に面会室を出て行ったのだった。
精神障害のせいもあるのだろうが、中村は見た目だけでなく、中身も幼いように感じられた。もしかすると、小5だった被害者の森田くんと精神年齢は大差なかったのではないか。そんな気すらした。
大阪高裁の控訴審では、高裁が職権で行った精神鑑定で、中村が犯行時に「発達障害の一種で軽度の自閉症スペクトラム」だったとする新たな鑑定結果が出ており、量刑が第一審より重くなる可能性がある。
ただ、検察の求刑は懲役25年だから、たとえ控訴審判決で量刑が重くなっても、中村はいずれ社会復帰する可能性が高い。その時のために、どんな量刑になろうとも、中村には獄中で精神障害をしっかり治してもらいたい。
▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。『さよならはいいません ―寝屋川中1男女殺害事件犯人 死刑確定に寄せて』(山田浩二=著/片岡健=編/ Kindle版)。