当欄で経過をお伝えしてきた東京地裁の「虚偽記者席」問題をめぐる国家賠償請求訴訟で、東京地裁(山田明裁判長)は1日、原告のフリージャーナリスト・今井亮一さんの請求を棄却する判決を言い渡した。今井さんは控訴する意向。

訴状などによると、今井さんは2011年5月から2012年9月にかけて東京地裁(多和田隆史裁判長)で、東京高裁警備員の頭を殴るなどしたとして公務執行妨害などの容疑で逮捕、起訴された大髙正二さん(72)という男性に対する計13回の公判を取材。大髙さんは無実を主張しており、事件前から裁判所に批判的な活動をしていたこともあって、一部で冤罪疑惑が囁かれていた(結果、懲役1年2月の実刑判決を受け、現在は東京高裁に控訴中)。そんな事件の公判で、東京地裁は毎回5席の傍聴席に「報道記者席」とプリントされた白いカバーをかけ、司法記者クラブに所属しない今井さんら一般の傍聴希望者を頑なに座らせないようにした。しかし実際には、「報道記者席」は5席中4~5席がいつも無人状態で、不審に思った今井さんが調べたところ、そもそも記者クラブ側から東京地裁に記者席の用意を一度も要求していないことなどが判明。そこで、今井さんは今年1月、同地裁に「虚偽記者席」で傍聴を妨害されるなどしたとして、国に損害賠償金1万円の支払いなどを求める訴訟を提起し、この日までに3回の口頭弁論が開かれていた。

判決文を一読した筆者の率直な感想は、「ああ、裁判所はやっぱり、問題をごまかしているなあ」というものだった。というのも、判決は「憲法82条1項の規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものではない」などという最高裁判例(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52213&hanreiKbn=02)に基づき、今井さんの主張を退けた上、東京地裁が司法記者クラブ用に毎回5席の「記者席」を設けたことについて、「報道により裁判内容が迅速かつ正確に広く一般国民の知るところとなることが憲法82条1項の定める裁判の公開の趣旨にも合致する」などということを根拠に「違法なものであったと認めることはできない」と判示しているのだが、実際にはこの5席の記者席が「司法記者クラブがまったく求めていない“虚偽”の記者席」であるという根本的な問題が完全に黙殺されているからだ。

「私としては、『虚偽記者席のせいで傍聴できないこともあった』という以上に、『卑怯・卑劣なものを見せつけられての不愉快が大きい』と主張したつもりだったので、そこが判決でスルーだったのは残念です」と今井さん。「一般傍聴人や私のようなフリーのジャーナリストが傍聴するより、記者クラブマスコミに傍聴席を(空席であっても)用意することのほうが『裁判の公開の趣旨に合致する』かのような言いぶりには、大いに違和感を覚えます」と、記者席が“虚偽”のものだったことをはぐらかすために判決がこねくり回した理屈を批判した。

「とにかくですね、判決理由の基本は、空席の記者席を設けることにも、今井が傍聴できなかったことにも、法律上の違法は何らない、ということに尽きるかと思います。脱法ハーブを違法とする法律がないので、脱法ハーブの使用に違法は何らないと言ってるようなものです」と判決を総括した今井さん。控訴審では、「法律がどうであろうと、ウソで人を騙すのはダメ」という「人間として当たり前のこと」に関する裁判所の見解を引き出すことにポイントを絞り、主張を展開していこうと考えているという。その考え方には筆者も共感できる。東京高裁が問題に正面から向き合った判断をすることを願いつつ、控訴審の行方も当欄でレポートさせてもらうつもりだ。

(片岡健)

★写真は不当判決を出した東京地裁