昨年9月に広島市で小6の女児がカバンに入れられ、連れ去られた事件で、わいせつ目的略取や監禁などの罪に問われた被告人、小玉智裕氏(21)の裁判が佳境を迎えている。10月7日の公判では、情状証人として出廷した小玉氏の母親が「被害者の方にはまだ謝罪を受け入れてもらえていませんが、受け入れてもらえたら、誠意をもって謝罪したいです」「今後は私たちがしっかり息子を監督していきます」と涙ながらに証言。これまで公判中はずっと無表情で、何を考えているのかさっぱり読み取れなかった小玉氏も母親の涙に心を動かされたのか、「(被害者の)心の傷は一生残ると思う。ぼくも一生かけて償っていきたい」と泣きながら反省の言葉を並べたのだった。
そんな重たい雰囲気の公判では、母親の証言により、事件に至るまでに小玉氏が抱えていた複雑な事情が明らかにされた。
小玉氏は事件当時、東京で暮らしており、成城大学の2年生だった。母親によると、「人付き合いは少なかったが、元々は真面目で、コトを荒立てるようなことはしない子」だったという。ところが、大学1年生だった事件前年に母親が再婚した際、一緒に暮らすのを嫌がり、一人暮らしをするようになった。さらに広島の祖父母(母親の両親)と養子縁組をし、このころから母親と小玉氏の間ではあまりコミュニケーションがなかったという。
そんな中、小玉氏は引きこもり状態になり、事件の年(昨年)の6、7月ごろから東京の心療内科に通って、うつ病などに処方されるサインバルタを飲むようになった。そして9月、運転免許を取得するために滞在していた広島市で、女児をカバンに入れて連れ去るという前代未聞の事件を起こす。この当時、小玉氏はいつもよりサインバルタを多めに飲んでおり、逮捕後、母親が初めて面会した際は、ハイテンションで、目つきもおかしかったという。さらに起訴前に実施された精神鑑定では、「広汎性発達障害」だと診断され、母親はこの鑑定結果にも「非常にショックを受けた」。ただ、「あとから考えると、(小玉氏には)思いやりが足りず、思い込みが激しいところがあった」という。
筆者はそんな裏事情を聞きながら、この裁判の最大の争点である「動機」について、思いを巡らせていた。10月5日付けの当欄(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=3131)でお伝えしたように、小玉氏は3月の初公判で起訴内容の大半を認めつつ、犯行が「わいせつ」目的だったことを否認。そして、9月19日の公判であった被告人質問では、犯行動機について、「自分の手足になる人間をつくろうと思った」「植物工場を作って、研究者や労働者にしようと思った」などと大変風変わりなことを次々に述べた。こうした一見荒唐無稽な証言について、筆者は前回、「本人は大真面目に語っていると思えなくもない」と述べたが、この日の公判でそういう思いがいっそう強くなったのだった。
この事件に関しては発生当初、「わいせつ目的」から引き起こされた事件であるような情報が報道やインターネット上で駆け巡り、筆者自身も当時、ロリコン大学生が引き起こした「わいせつ目的」の異常事件だと何の疑いも抱かずに思い込んでいた。しかし、意外と事実はそうではない可能性もあるのではないか。次回公判では、弁護側と検察側の相互申請により証人出廷する精神鑑定医が、小玉氏の「犯行時の精神状態」を証言する予定だ。また何か意外な事実が明らかになるようであれば、報告したいと考えている。
(片岡健)
★写真は、小玉氏の裁判が行われている広島地裁。