前回に引き続き、大日本新政会総裁、笠岡和雄氏から筆者に届けられたFAXの内容をご紹介しよう。

笠岡氏の記事の後半部分は、バーニングプロダクションの周防郁雄社長と女優の水野美紀の確執に関するもので占められている。

水野は中学生の時に東鳩のキャンペーンガールコンテストで準優勝したのち、グリーンプロモーションという芸能事務所にスカウトされ、上京し、タレントとして活動を始めた。

1994年、同プロが閉鎖したのに伴い、バーニングプロダクションに移籍。その後はゴールデンタイムのドラマにも出演するようになり、特に97年からフジテレビの『踊る大捜査線』シリーズで柏木雪乃役としてレギュラー出演し、知名度を上げた。

ところが、2005年、水野は10年以上所属したバーニングプロダクションから突然、独立。後に水野は「役の幅を広げたい、そのためには舞台をもっとやってみたいと思うようになって」「でも、その方向は事務所のカラーとは決定的に違っていて、だったら一人でイチからやってみよう、ということで辞めたんです」と説明している(『週刊文春』2009年4月9日号)。

メディアでは語られることはなかったが、この独立劇には周防社長と水野の深刻な対立があったという。

笠岡氏によれば、周防社長と水野は長年、愛人関係にあり、周防社長は水野の独立に烈火のごとく憤慨していたという。

周防社長の妨害により独立後の水野には干され、しばらく芸能界から姿を消していた。それに対する反撃の意味のあったのか、水野は作家の宮崎学が責任編集するウェブマガジンでの対談で、周防社長の愛人時代に知った「クスリを使用した陰湿なSEX」について暴露した。

この記事を読んで怒った周防社長は笠岡氏に「総裁、水野美紀を芸能界から抹殺してほしい、いや殺してくれ!」と錯乱状態で要請したという。

水野が周防社長に対して強気だったのは、当時、山口組の二次団体で神戸に本部を置く暴力団、西脇組の後ろ盾があったからだった。

同組と昵懇だった笠岡氏は、直ちに周防社長と水野の仲介に動き、水野から提案された「今後、水野が周防社長の愛人だった秘密を他言しない代わりに周防社長は水野の仕事を妨害しない」という条件で和解をまとめた。

だが、周防社長は和解を無視して、大手芸能事務所ケイダッシュの幹部で自分の子分でもある谷口元一氏を使って、テレビ各局のプロデューサーに「水野美紀を番組に出せば承知しないぞ」と執拗に脅迫して回っていたという。

これを伝え聞いた「西脇組の山下」は、「ふざけるな。俺が谷口をいわす! 男の約束は命より重い事を思い知らせてやる!」と憤慨した。

関西では有名な武闘派集団として知られる西脇組の関係者が「逆に周防を潰せ! 芸能界から追放しろ!」と息巻いていることを知った周防社長は腰を抜かさんばかりに慌て、再び笠岡氏に泣きつき、「殺されます。どうか総裁の力で止めてください」と懇願した。

笠岡氏が「いいか二度と水野美紀の追い込みをやめろ。谷口にそう伝えておけ」と噛んで含ませ周防社長に諭すと、周防社長は「分かりました。今度こそ間違いなく水野は許します」と答えた。

これによって騒動は一件落着したはずだったのだが、周防社長による水野排除の動きはその後も続いたのだという。

以上の話は以前にも大日本新政会のブログでも紹介されていた話だが、筆者が笠岡氏より送ってもらったFAXには、その続きが書かれていた。

水野を支援していた西脇組の山下氏とその兄弟分のAは、2005年ごろ水野のために3000万円の資金をかき集め、水野のための芸能事務所を設立したという。

東京某所にあった事務所は100坪ほどの広さでなかなか立派なものだったが、周防社長の妨害もあって仕事は一切入らなかった。

山下氏らは水野のために借金をして新事務所を立ち上げており、水野を成功させなければメンツも立たず、切羽詰まっていた。

そこで、笠岡氏が改めて周防社長に連絡を入れると、周防社長は側近で琉球ゴルフ倶楽部の運営会社、玉城園地の社長を務める椿勝氏を使いとして寄越した。

ところが、この椿氏が曲者で「水野を出してやるから、CM料の35%をうちにもってこい」という条件を出した。

裏金で35%も払ったらまともな利益は出ないと考えた山下氏はこの申し出を断った。ところが、裏金で35%という上納金は、バーニングを裏切った水野に対する報復ではなく、バーニンググループでは常識的なものなのだという。バーニングは長らく多くの系列事務所を抱え、権勢を振るっていたが、傘下の芸能事務所の多くはタレントをテレビに出演させても、裏金で35%もの上納金をバーニングに支払い、ほとんど利益を出せなかったという。

その一方で周防社長だけが裏金で多額の上納金を懐に入れ、蓄財に励んでいたのだが、千葉の産廃事業の失敗などで今ではそのほとんどを失ってしまったと見られる。

さて、水野排除で動いていた谷口氏について「あいつの本籍はバーニングです。ケイダッシュは派遣です」と周防社長は折りに触れ話していたという。

谷口氏といえば、2008年に練炭自殺した、TBS出身のアナウンサー、川田亜子の事件で川田の元交際相手として、また、2012年にミス・インターナショナル世界大会でグランプリを受賞した吉松育美の芸能活動を排除したことで名前が取り沙汰された人物だ。

もともと谷口氏は学生時代に小泉今日子や中山美穂の親衛隊に入って頭角を現し、周防社長の息子の家庭教師をしていたという。

その後、ケイダッシュの立ち上げに参画し、同社の幹部として芸能界で名前が知られるようになっていったが、その間、周防社長の裏の仕事をたびたび請け負っていたという。

話を水野美紀に戻す。

水野のための事務所を立ち上げたものの、一向に仕事が入らない山下氏は追い詰められていった。

『踊る大捜査線』への出演で有名になった水野がまったく起用されないのは、周防による妨害のせいだと勘ぐった山下氏は「周防をいわしたる!」と意気込んで周防社長を散々追いかけ回していたという。笠岡氏によれば、その過程で「かなり際どい場面もあったようだ」という。

「ある日、山下が顔を硬直させながら『会長、周防とケジメをつけて下さいよ』と、俺に迫ってきた。若い衆も居るなかでな。周防への報復でかなりモメたわけやが、その後、怒り心頭が頂点になった山下は兄弟分Aと『周防にけじめをつける』と独断で動いた。『しばらく待たんかい』と制止する俺との約束不履行だったわけだ。それが元で西脇組から破門になった。Aと二人ともどもだ」

山下氏が周防社長に何をしたのかは定かではないが、後日、周防社長は「笠岡会長、山下の件ですが、何とかケジメをつけておさめて頂かないと示しがつかない」と文句を言ってきたという。

山下氏らは笠岡氏の静止も振り切って周防社長を詰めたのだから、笠岡氏としても山下氏には憤りを感じていた。

そこで笠岡氏は西脇組幹部に相談をして山下氏とA氏の破門・絶縁処分が決定。さらに同組の若い衆が1000万円の包みと山下氏のものであろう「指」を周防社長にぶつけるようにして渡したという。

周防社長は「指」については「そんなん要りませんわ!」と言い放ち、軽く一瞥してから鞄に1000万円の現金を詰め込んで帰っていったという。

それ以来、山下氏とA氏2人の消息が途絶えた。笠岡氏が四方に問い合わせたが、2人の行方を知る者はいなかった。

「まさか、俺の時のように(引用者注:笠岡氏は周防社長と決裂して以降、何度も命を狙われたという)逆ギレした周防がヒットマンを雇って、山下とA氏の二人を殺したのではないか、と勘ぐったが、その可能性がないとは言えん。
 水野美紀との愛憎劇の末に逆上し、半狂乱の周防が、『水野を殺してくれ』と、真剣に俺に頼んだ、あの凄まじく嫉妬深い周防のことだ。俺には内密に殺し屋を雇ったかもしれんが、すでに10年の時が流れとるし、いずれ真実が分かるやろう」

当時、笠岡氏は周防社長の用心棒であり、山下氏の独断専行を止める役目を負っていた。周防社長が約束を守り、水野に仕事を与えていれば、山下氏もおかしなことは考えなかったはずだが、華やかな芸能界に幻惑され、自らの破滅を招いたのかもしれない。

笠岡氏は次のように述べている。

「山下も芸能ビジネスに食い込んで、かなり舞い上がっとった面が多分にある。動いていた若い衆を食わさなならんし、周防の芸能利権を奪おうと躍起になって墓穴を掘ったのか。華やかな舞台の裏には、毒々しい利権争いのさっきが満ち溢れとる。それが芸能世界の恐ろしいとこや」

これまでに述べてきた山下氏のケースは何も特別なことではない。

芸能界でバーニングプロダクションが台頭したのは80年代のことだが、それから現在に至るまで山下氏のように芸能界で周防社長に挑戦し、姿を消していった者は大勢いる。ところが、そのほとんどは報道もされず、闇に葬り去られてきた。

最近になって公正取引委員会が芸能界の悪しき慣習に乗り出すなど新しい動きも出てきているが、芸能界の古い常識を疑わない周防社長のような重鎮が力を持っている限り、業界の体質を改めるのは容易ではないだろう。(了)

追記:本稿掲載直前に筆者が笠岡氏に改めて確認したところ、周防社長と敵対した西脇組の山下氏は存命が確認されているとのことだった。


◎[参考動画]CM KOSE ルシェリ 唐沢寿明 水野美紀(117cmVol1 2011/7/10公開)

◎大日本新政会笠岡総裁から届いたバーニング周防社長をめぐる芸能界秘話〈1〉

▼ 星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。近著は『芸能人に投資は必要か?』(鹿砦社)https://www.amazon.co.jp/gp/product/4846312690 著者ツイッター https://twitter.com/YOHEI_HOSHINO?lang=ja

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