悲惨なストーカー殺人事件が起こるたび、マスコミが必ず引き合いに出すのが、1999年に埼玉県で女子大生が刺殺された桶川ストーカー殺人事件だ。先日、三鷹市で女子高生が元交際相手のストーカー男に殺害される事件が起きた際、ストーカー規制法ができるキッカケにもなったこの事件を思い出した人は多いだろう。
この事件で被害女性にふられた弟のため、殺害を命じた「首謀者」とされ、無期懲役判決が確定した小松武史氏(47)にも「冤罪疑惑」があることは今年5月に当欄(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=2572)で紹介したが、実はその後、この事件をめぐって非常に理不尽なことがあった。小松氏の服役先の千葉刑務所が何ら理由を示すことなく、今年の夏ごろから筆者と小松氏の手紙のやりとりを全面的に禁じるという取材妨害を敢行してきたのである。
筆者は、昨年の春ごろからこの事件を再検証する取材を重ねてきたが、現在まで小松氏との面会は千葉刑務所側に一切認められていない。そのため、手紙のやりとりは、小松氏本人から事情を聴くための唯一の手段だった。冤罪事件の取材では、本人取材は非常に重要なことなのに、手紙のやりとりを禁じられ、その機会が完全に奪われてしまったのである。
筆者は9月中旬、このような処遇にした理由を千葉刑務所に電話で問い合わせた。すると、松橋隆夫庶務課長は「こういう場合、文書で所長宛てに照会してもらうことになっている」という。そこで、筆者は9月19日付けで、筆者と小松氏の手紙のやりとりを禁じる理由や、どんな法令などに基づいてこんな処遇にしたのかを松村亨所長に照会する文書を千葉刑務所に郵送したのだが、いつまで経っても返事は来ない。1カ月近くに渡り、「そもそも回答する意思があるのか否か」というレベルの問い合わせを再三行ったが、松橋庶務課長は「まだ担当のほうで検討中だと思うんですけど・・・・・・」「まだ結論が出ませんで・・・・・・」などと曖昧で、頼りない返事を繰り返すばかりだった。
ついに筆者も我慢の限界がきて、10月15日に電話で松橋庶務課長に「今週金曜日(18日)までに、そもそも回答する意思があるのかどうかについての回答すらなければ、回答する意思がないものとみなさせてもらう」と告げたが、結局、18日までに何の連絡もなかった。「やましいところがあるから、刑務所は何も答えられないんでしょう」と言ったのは小松氏の父親だが、筆者も実際そうだと思う。
小松氏の冤罪疑惑については、世間にほとんど知られていないが、よくよく調べてみると、この事件はむしろ冤罪疑惑が持ち上がらなかったのが不思議な事案である。何しろ、検察が有罪立証の拠り所にした実行犯の男が公判では、「取り調べで小松氏に殺害を依頼されたと供述したのは嘘だった」「被害女性にふられた小松氏の弟の無念を晴らすため、自分が勝手にやったことだった」という趣旨の証言をし、検察のストーリーを根底から覆しているからだ。実行犯の男は、小松氏の弟が経営する風俗店で働いており、自分を厚遇してくれた小松氏の弟に恩義を感じていたのである。千葉刑務所が筆者と小松氏の手紙のやりとりを突如全面的に禁じたのは、筆者がこうした事実関係を5月末発売の雑誌「冤罪File」第19号(http://enzaifile.com/publist/shosai/19.html)でレポートし、小松氏に献本してからのことだった。
千葉刑務所の今回のやり方はあまりに理不尽で、事後的な対応にもまったく誠意が感じられず、筆者もこのまま放置しておくつもりはない。この問題は徹底的に追及するので、当欄でも続報をお届けしたい。
(片岡健)
★写真は、不当な取材妨害をしてきた千葉刑務所