住宅が殺人事件の現場になった場合、その後にたどる運命は主に2つある。1つは事故物件として空き家、空き部屋のままで残るパターン。もう1つは建物が取り壊され、更地になったり駐車場になったりして生まれ変わるパターンだ。
そんな中、2014年に承諾殺人事件の現場となった松江市の住宅は、その後、特異な運命をたどっていた。現場の「半分」だけが消えてしまったのだ。
◆現場は2階建てのアパート風の物件だったが・・・
この事件の犯人である女子大生(18)が逮捕されたのは、同年4月3日のこと。名古屋市で暮らしていた女子大生はこの2日前、母親に「インターネットで知り合った人に会いに行く」とだけ告げ、家を出た。母親はその夜、女子大生から「その男性と松江市で心中する」との連絡を受けたという。
そこで母親は翌朝、娘が話していた松江市内の空き家まで駆けつけた。すると、2階の部屋では5個の七輪で練炭が燃やされており、そのかたわらで男性(31)の遺体と共に座っている娘を見つけたのだという。
警察の調べに対し、女子大生は「男性に殺してくれと頼まれ、首を絞めて殺した」と供述。承諾殺人の容疑で逮捕されたという。現場は、殺害された男性の祖父が所有する建物で、男性は失業や離婚の悩みから、インターネットで知り合った女子大生に「殺して欲しい」と求めたようだ。
筆者がこの怪事件の現場を訪ねたのは、事件発生から3年近く経った2017年の初めのことだった。テレビニュースの映像で観た現場は、2階建てのアパート風の物件だったが、その変わりようは凄まじかった。建物はその場にそのまま存在しているのだが、2階部分だけがそっくり消えているのだ。
おそらく建物の持ち主である遺族が被害男性の悲惨な死に耐えかねて、2階だけを取り壊してしまったのだろうが・・・。男性は殺されたとはいえ、自ら望んでのことだから、遺族としては怒りの持って行き場もなかったはずだ。本当にやり切れない思いだろう。
▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)も発売中。