「ご質問頂きました聖火リレーについてですが、ルート選定などの会議は全国統一でメディア非公開で行われております。決定までの経過などに関しましては、秘匿情報もございますし、違う形で情報が公開されてしまいますと、混乱のもととなります為に、決定事項のみメディアの皆さまへは発表させていただいております」

民の声新聞2月10日号(徹底した〝秘密主義〟のベールに包まれる聖火リレー。「ふくしま実行委」の議事録ほぼ全面黒塗り。背景に組織委の意向)の執筆にあたり、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の戦略広報課に質問をメールで送っていたが、その回答がようやく届いた。冒頭の文章が組織委からの回答だ。

 

だが、筆者が質問していたのは次の2点だった。

「福島県に聖火リレーのルート選定などに関して取材したところ、『大会が終了するまでは会議の内容や出された意見など一切公表しないよう組織委員会からお願いされている』 との事でした。これは事実でしょうか。また、実際にそのような依頼をされているとしたら、その理由は何でしょうか?」

その意味で、組織委員会は全く質問に答えていない。そもそも「秘匿情報」とは何を指しているのか、「混乱のもととなる」と言うが、どのような「混乱」を想定しているのか。全く分からない。

きっかけは、1月23日付での公文書開示請求だった。

福島県は2018年8月から今年1月までに計8回、「東京2020オリンピック聖火リレーふくしま実行委員会」(以下、実行委)を開いているが、その議事録はホームページなどで広く県民には公開されていない。そもそも議事録が存在するのか否かさえ分からない。そこで情報公開制度を利用して議事録の開示を求めたところ、ほぼ全面的に黒塗りされた状態で開示されたのだった。

別紙で示された「開示しない理由」には、

①「東京2020オリンピック聖火リレーの県内実施詳細等の審議、検討又は協議に関する情報であって、検討段階の情報を開示することにより、率直な意見交換若しくは意思決定の中立性が損なわれるおそれ、又は、不当に県民等に誤解や混乱を与えるおそれがあるため」、

②「県の機関、国及び他の地方公共団体等が行う事務又は事業に関する情報であって、当該事務又は事業の性質上、開示することにより、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」と記されていた。

わずかに開示された部分からは、各委員にはメモや資料持ち帰りまでも禁じている事が分かる。聖火リレーの準備は徹底した〝秘密主義〟で進められていたのだった。

実は開示請求をした直後、福島県オリンピック・パラリンピック推進室(以下、推進室)の担当職員から筆者あてに電話があった。

「組織委員会の意向に従い、委員の発言はほぼ黒塗りで開示する事になりますが、それでも良いですか? 他からの開示請求でも同じ対応をしています。どうしますか? 請求を取り下げますか?」

もちろん、各委員の発言を伏せられるのは承服出来ないが、かといって取り下げる理由にもならないので改めて開示を請求した。県の担当者は、電話越しに「では、開示する事になると思いますが、大部分が黒塗りになりますので、何卒ご理解ください」と念押しした。そして、開示された83枚にわたる議事録は、〝予告〟通りに真っ黒だったというわけだ。

そもそもなぜ、聖火リレーのルートやランナーについて話し合う会議での発言が隠されなければならないのか。取材に応じた推進室の佐藤隆広室長はこう答えた。

「文書は特にいただいておりませんが、組織委が全国の都道府県に対して議論の過程は公表しないよう『お願い』していると聞いています。その『お願い』にどこまでの強制力があるかについては各都道府県の受け止め方にもよると思いますが、全国統一で組織委がそのような『お願い』をしている以上、それに沿った対応をしようという事です」

福島県は、〝復興五輪〟や聖火リレーを起爆剤として、国内外に「原発事故から立ち直った福島の姿」を発信したい考えだ。内堀雅雄知事は、事あるごとに「福島県の『光』と『影』の両方を正確に発信したい」と口にしているが、実際にはスポーツの祭典は「光」ばかりの発信に使われる。

 

福島県の市町村

公表された聖火リレーのルートからは、フレコンバッグの山や家屋解体でさら地が増えている様子などは伝わらない。浪江町に至っては、町民の帰還や生活と何ら結びつかない「水素工場」や「ロボットテストフィールド」がルートに選ばれた。また、著名人を対象とした「PRランナー」にはTOKIOやしずちゃん、大林素子など6人1組が選ばれたが、誰が、どの立場で彼らを提案し、それに対してどのような意見が出されたのか、他に候補者はいたのかなど、全く県民には知らされないまま結果だけが伝えられる。原発事故はもはや過去の話にされるのだ。

推進室の佐藤室長は、議事録は行政文書にあたると認めている。それであれば公開の是非は県の判断で決められるべきだ。だが、実際には公益法人であるところの組織委の意向が大きく影響している。これは、公文書開示の点からも問題があるのではないか。

組織委は全国統一での「非公開」だけは認めた。しかし、なぜ議論の過程を明らかにしないのかについては曖昧なままだ。五輪に乗じた〝復興推進〟の陰で、救済されずに泣いている人が存在する事など隠され、消されていく。原発事故の被害者たちは「オリンピックで何もかも終わった事にされてしまう」と言い続けて来たが、まさにそれを象徴するような議事録の黒塗り。徹底した〝秘密主義〟の下で都合の悪い事は黒く塗られていく。原発事故被害者の存在も。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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