京王線を利用する時、新宿駅発着のホームが「京王線新宿駅」と「京王新線新宿駅」の2つあり、非常にわかりにくいと思っていた。京王線の多くは京王線新宿駅で発着し、都営新宿線と直通している電車は新線新宿駅に止まる。面倒くさい、なぜ一カ所にしないのかとばかり思っていたが、東急線の新渋谷駅が出来てからは考えを改めた。
今年東急東横線渋谷駅は、東京メトロ副都心線と直通運転のため地下駅に移動した。誰の意見を聞いても、悪評高い地下駅だ。まず地下5階という深さにあり、乗り換えが面倒くさい。以前はすぐ隣にJRの渋谷駅があったので乗り換えも楽だったが、今は地下5階から地上2階の山手線のホームまで歩かなければならない。事実上7階の上り下りを強いられる。JRはまだいい方で、京王井の頭線までは元々少し離れていたのがさらに遠くなり、普通に歩いたら10分はかかる。おまけに田園都市線、半蔵門線との乗り換え客の通り道とどこかで交差しなければならず、人ごみの列に人ごみの列が突撃する光景が毎日繰り広げられている。さらに地下の東横線ホームは異常に狭く、渋谷という都内トップクラスの乗降客過多な駅には足りなさすぎる。上り下りのエスカレーターも狭く、ラッシュ時にはいつも大混雑している。駅員が毎日何人も両手を広げて、人壁を作って客を誘導しないとならない程だ。そんなことをしている時点で、駅構造に問題があることを示している様なものだ。
建築家安藤忠雄の設計で「地中船」とやらの渋谷地下駅が生れた。確かに大きな吹き抜けがあり、円形のデザインは地下とは思えない空間を感じさせる。だが通勤、通学で使う駅に芸術性を求める人は殆どいないだろう。毎日利用する側としては利便性以上のものを求めてはいない。副都心線は近年できた路線であるから、渋谷駅中心から離れてしまうのも仕方がない。既存の地下鉄より深くしなければならないのも止むを得ないだろう。実質、ただ広い空間を歩くだけの地下4階などは作る意味があったのかは疑問だが。
そこで思い直したのが京王線新宿駅だ。京王線新宿駅のホームはJR、小田急の駅ホームにほど近い場所にあり、乗り換えに便利だ。新線新宿駅はやや離れたところにあり、東横線渋谷駅程ではないが地下深くにある。すべての京王線が新線新宿駅発着になっていたら、渋谷の地下駅同様、大変な不便を強いられていただろう。一見わかりにくく、不親切な京王線の新宿駅だが、京王線新宿駅のホームを残したことで、毎日使う人への配慮をしてくれたと考えられる。むしろ京王線は、親切な設計をしてくれたのだ。
(戸次義継)