金融庁は、12月26日にみずほ銀行とみずほFG(ファイナンシャルグループ)に対して、1ヶ月間の一部業務停止命令を発表。9月の業務改善命令に引き続き、2度目の処分だ。みずほFGは、塚本隆史会長が、2014年3月31日付で引責辞任すると発表している。
今回の金融庁の処分は、暴力団員への融資に対してだが、みずほ銀行の不正は、暴力団への融資だけではない。

12月3日に東京地裁411号法廷で、みずほ銀行が顧客から訴えられた裁判が2件行われている。
被告はみずほ銀行だが、直接被害者を騙したのは、暴力団など反社会勢力への融資を行っていたみずほ銀行の元審査役の及川幹雄氏であり、暴力団への融資の鍵を握る人物だ。
一方で及川氏は、銀行の顧客には高金利の投資商品を勧誘し、利払いが滞り、元本も返却されず、顧客から訴訟を起こされている。暴力団には返済される見込みのない融資を行う傍ら、顧客の金を熔かしていたわけだ。

及川氏は日大卒ということだが、官僚組織と同様の学歴社会の銀行の出世競争で勝ち残れたのは、銀行の裏の汚れ仕事を一手に任されていたからと言われる。
及川氏は銀行を辞める時に「銀行は絶対に俺を訴えることは出来ないはずだ」と豪語していたという。
みずほ銀行と及川氏が、顧客から訴えられた裁判には、既に判決が出ている裁判もある。この裁判に及川氏は出廷せず、1億円余の損害賠償支払いが命じられている。だが、一緒に訴えられたみずほ銀行の責任には触れられていなかった。

銀行としては、顧客への詐欺については、及川幹雄氏個人の犯罪にしたいところだろうが、みずほには、及川氏を刑事告訴して潔白を証明するわけにはいかない裏事情があるようだ。また暴力団の融資は、みずほの子会社を通じて行われており、銀行の幹部も承知していた。
なぜ、みずほ銀行が不良債権化することが確実だった暴力団への融資を行ったのか?その全てを知っているのが及川幹雄氏なのだ。そして及川氏は事件屋やブラックジャーナリストから強請られていたことが、既にミニコミ誌などで報道されている。

みずほ銀行には、関連会社に銀行が入手したインサイダー情報を流して取引をさせていた疑惑もある。及川幹雄氏が顧客から金を騙し取った手口も、「特別な顧客だけに紹介しているという元本保証の高利回りの投資商品」を、みずほ銀行本店の応接室で大口顧客に勧誘して出資者を募っていた。
この及川氏が顧客に勧めた投資商品は、みずほ銀行が「株ぎょうせい」の株式を大日本印刷から買収するのに必要とする資金を集めるという話が口実に使われた。
実際にみずほ銀行は、官公庁の政府出版物を扱う出版社の株ぎょうせいの元のオーナーだった藤澤一族の保有する株式を、グループ子会社に買収させ、最終的には元首相の麻生金融相の親族が取締約にいる会社に収得させたから、まんざら出鱈目の話とは言えなかったのだ。
月利3%(紹介者への手数料も含めれば月利8%)という高金利もかなりの期間支払われていた。この㈱ぎょうせいの株式をみずほグループが、オーナー一族から買収するスキームで暗躍していたのが、税理士の本間美邦氏という人物だ。及川氏と並ぶもう一人の事件の鍵を握る人物であり、みずほ銀行とは、97年の第一勧銀の総会屋事件の前から関係がある。

重要なのは及川氏がみずほ銀行の名前で金を騙し取った顧客の多くが、表には出しにくい金をみずほ銀行に預けていたことだ。裁判所に訴えているのは、被害者のごく一部に過ぎない。金を騙し取られた資産家の多くが、税務署に目をつけられることを恐れ、訴えずにいるという。
つまり暴力団への融資や政治家への利益供与の為、銀行が預かった資産家の金を騙し取る構図が見えるわけだ。
及川氏は銀座の高級クラブで取り巻きたちと豪遊して、「俺はみずほの特命社員だ」と嘯いていた。最初筆者は“特命社員”の意味が解らなかったのだが、テレビドラマになった劇画『特命係長・只野仁』のことらしい。自らをテレビドラマの主人公に擬えるとは、お堅いイメージの銀行マンとは思えない御仁だ。
当然、及川氏に特命を与えた上役が銀行内部にいる筈だが、それが12月26日に辞任を発表した塚本隆史会長(第一勧銀系)だったのかは、まだ定かではない。

(高田欽一)