勝又氏が勾留されている東京拘置所

2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で小1女児が殺害された「今市事件」について、筆者は当欄で、被告人の勝又拓哉氏(37)が冤罪であることを繰り返し伝えてきた。

だが、残念なことに、3月4日、勝又氏は最高裁に上告を棄却され、無期懲役の判決が確定することになった。

そんな勝又氏から筆者のもとに、現在の心境などが綴られた手記が届いたので、ここに紹介したい。

手記では、勝又氏は裁判への不満などを率直に語りつつ、再審で無罪を勝ち取るまで無実を訴え続けることを宣言している。台湾出身の勝又被告の言葉はたどたどしいが、無実の人間ならではの自信が行間からにじみ出ている。ぜひご一読頂きたい。

勝又氏から届いた手記

◆上告書をちゃんと読んでいるとは思えない

3月5日の午後3時頃、いきなり看守から書類が届けられ、わけがわからずに受け取ってみたら、最高裁の決定書で「棄却決定」とありました。支援者から差し入れてもらった本を読んでいる最中のことでした。

決定書は1枚だけしかなく、「中身この1枚だけ??」と思いました。自白の任意性はあると認め、法令違反や事実誤認の主張は上告理由に当たらないとあり、理解できませんでした。自白の任意性よりも信用性が問題であり、信用性は控訴審で否定されたはずなのに、この点には触れていないし、事実誤認の主張が上告理由に当たらないというのも理解できませんでした。

もしも控訴審判決を精査しての判断であるなら、犯人は本当は私ではないという重大な事実誤認が読み取れなかったか、無実の証明ができなければ、上告理由に当たらないということだと思います。

決定書は裁判で争点になった「Nシステム」「手紙」「取調べ」の録音録画などについても何ら触れていませんでした。最高裁の決定書から読み取れるのは、裁判官が事件を右から左に流しただけで、上告趣意書をあんまり見ていないということでした。1年半かけて、上告趣意書の中身にまったく触れていない決定書に、先日の森法務大臣の発言にあった「無実なら無実を立証すべき」との言葉が蘇りました。

有罪証拠がこれだけ無いうえに、控訴審で最後の最後に検察が禁じ手の訴因変更、それを当たり前のように認めた控訴審裁判官、そして、それについて、何ら触れない最高裁。99.9%の有罪率は恐ろしいとあらためて思いました。悪くても差し戻しになり、控訴審をもう1回やると思っていました。

決定書を受け取った初日は本当にショックが大き過ぎました。「ありえない」と目の前が真っ暗になりました。2日目は落ち着きを取り戻し、判決文をよく読み返し、いかに理不尽な文章なのか、なんとか理解できるようになりました。弁護団が提出した大量の上告書に対し、決定理由は6行の文章しかないのです。上告書をちゃんと読んでいるとは到底思えません。

◆「やってない」と胸を張って言い続ける

警察や検察の関係者から状況証拠の積み重ねで有罪にしたとのコメントがありましたが、そこまで自信のある証拠を集めていたのなら、控訴審での検察の訴因変更は何だったのでしょうか。ただの訴因変更ではなく、死亡時間や場所、これらがまったくわからない変更です。

殺害方法も控訴審で自白通りでは不可能と証明されていますし、Nシステムにしても検察が証拠開示に応じていないので、どれほどのセダン車やワゴン車が通ったのかわからないし、警察や検察が自信があるなら、捜査資料などあらゆる証拠を開示してもらいたいです。

何年かかろうと、やっていない殺人を認めるわけにはいきません。東住吉冤罪事件の青木恵子さんの記事によると、刑務所では罪を認めない人は何かと不自由だったり、なかなか階級を上げてもらえなかったりするそうです。でも、たとえ階級が上がらなくて、家族と会える時間が増えなくても、私はやってない殺人について「やってない」と胸を張って言い続けます。

国会が冤罪調査会のようなものを作ってくれたらいいのですが、今の国会(というか、国会議員)には期待できそうにありません。だから、今のままの司法で再審を求めて、無罪を勝ち取ります。私は、やってないから強気でいられるのです。弁護団はどうなるのかという点について不安はありますが、堂々と胸を張って、再審請求を粛々としていきます。

私の再審無罪が決定した日、警察や検察が記者会見で何を言うか、今から大変気になります。再審無罪になったら、誰が悪かったのか、責任の所在を明らかにしてもらいたいです。そして取調べでは、せめて弁護士の立ち会いを認めるようにしてもらいたいです。弁護士が全ての取調べに立ち会いできれば、録音録画をしていない時に警察や検察が変なマインドコントロールをする心配がなくなります。

私の場合、最初の数日の取調べで、警察や検察はまず私を屈服させることに全力で取り組みました。そして、その後はやさしく洗脳されました。こういう取調べに弁護士が立ち会いをしていれば、冤罪はかなり減ると思います。また、その前に警察や検察が無罪が出た冤罪事件に対して、素直に「申し訳ありません」の一言を発する時代がくることを願うばかりです。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)