3月15日、社会福祉法人ピースクラブ(大阪市内)で「桜井昌司Specialday」を開催した。布川事件の冤罪被害者である桜井さんが29年の刑を終えて千葉刑務所から出所し、普通の生活を取り戻しながら再審を闘う姿を追い続けたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」(井手洋子監督)の上映会と、桜井さんのトークライブの2部構成。昨年秋にがんを宣告され、現在食事療法を続ける桜井さん。かなり痩せられたが、トークも歌もこれまで以上の迫力。冤罪を無くすため、全国を駆け回る桜井さんにエールを送るつもりで企画したが、逆に「もっと頑張れよ」と背中を押された1日。迫力満点のトークの書き起こしを前編・後編2回に分けて紹介します。(構成=尾崎美代子)
※字数の関係で一部削除したほか、分かりやすく加筆、訂正しています。
◆どうせ刑務所に行くなら頑張ろうと
皆さん、こんにちは! 映画「ショージとタカオ」、久々に見ました。23年前にシャバに出てきて、ドラマチックな自分の人生を確認したところです。「桜井昌司でよかった。刑務所に行ってよかった」と改めて思っています(笑)。多分ひと様には経験できない人生を確実に歩みましたからね、間違いなく。人生というのは真面目に生きていても、いいことばかりあるわけでもない。でも一生懸命やらなければ何も味わえないと、自分で思いました。29年刑務所に入りましたが31歳で千葉刑務所に行く時、突然パッと「人生は一度限り、今日は一度限りだ」と思ったんです。
刑務所は働くところ、どうせ働くなら一生懸命に働こうと思った。シャバでまともに働いたことなかったから(笑)。毎日真面目に靴を作って、3年目に法務大臣賞を貰いました。音楽クラブに入ってトランペット吹いて、佐藤光政さんに指導して頂き作詞作曲するようになりました。29年の刑務所生活は何も無駄になっていなかったと確信持って言えるようになりました。
刑務所生活は大変ですよ。看守は煩いし、意地の悪い奴もいる。千葉刑務所に入っているのは、人を殺めた人がほとんど。ちょっと肩に触ったりするとニコッとして「肩触んないで。俺、肩触られると殺したくなっちゃうから」なんていう人もいる。怖いですよ。でも自分はそういう人でも仲間だと思って付き合ってました。
そういう日々から考えるとシャバに出てなんでも自由にやれることが素晴らしいと感じた。出てから23年経って私は幸せや楽しさを感じない日はない。毎日が楽しい。刑務所29年入って本当によかったと思っています。
質問あったらどうぞ。なんでも正直に「自白」しますから(笑)
◎[参考動画]ショージとタカオ予告編 NEWバージョン1
質問 自白というのは、「私がやりました」というのですか?
桜井 そうです。出てきたとき「なんでやったと言ったの? やってないと言えば、警察が調べるじゃん」と良く言われた。でもそれは警察を知らない人。警察という職業は、捜査はするが真実を見抜くという職業ではない。あの人たち、一人一人は皆、真面目と思います。中にはどうしようもない警官もいるが。真面目な警官が、なぜ無実の人を犯人にしてしまうかというと、彼らはいつも人を疑うからです。警官が交番などで立ってますよね。何考えてるかというと、「何か悪いことしている奴はいないか」なんです。いつもいつも人を悪く見ている人間に、人の真実を見極める力はない。コイツは絶対やっているとしか思ってない。私が「やってない」というと「お前の言っていることは嘘だ」と必ずいう。そんな警察に朝から夜中まで「お前だ、お前だ」と言われる。
結婚している方、夫婦喧嘩したら、最後どう解決します?その喧嘩が解決せずにずっと続くようなもの。イジメにあっている方、そのいじめが毎日毎日続くと思ったらいいです。それを狭い部屋の中でやられると耐えられなくなってくる。人は信じてくれるから、本当のことが言える。「やってない」と言っても「いや、お前だ」「見た人がいる」とずっと言われる。そのいつ終わるかもしれない痛みに人間は負けてしまう。これは経験のない方にはわからないと思います。
警官たちは一旦疑いを持ったらなんでもやる。日本の警察組織は犯罪組織ですから。これは本当ですよ。一人一人はいい人かもしれないが……。経験しないとわからないこともあるが、本当に警察は悪いと思わないとダメです。
質問 無罪を勝ち取ったあと警察、検察、裁判官は桜井さんに謝りましたか?
桜井 僕たちが再審無罪になった時、検察は「無罪になったが、あれは裁判長が間違った」と記者会見で言いましたよ。映画で杉山(一緒に逮捕された杉山卓男さん。2015年死去)が「国賠は勝てない」と言ってましたね。日本の権力は間違いを認めない。だから杉山は国賠をやらないといったが、私はそう思わなかった。だって酷すぎるでしょ。無実の証拠を隠しておいて謝罪もなく「あいつの最初の自白が正しい」なんてダメでしょう。それで私は国賠やって、昨年勝ちました(大拍手)。
税金で食ってる警察や検察が証拠を隠したりしたらダメです。でも私は警察、検察、裁判所も恨んでない。ただ、証拠を隠していたことが認められるようだと、今日会場にきている西山美香さん(湖東記念病院事件の冤罪被害者、3月31日日再審無罪判決を受けた)みたいに、やってないのに犯人にされてしまう人がまたでてくるから。検察が無実の証拠を隠したら、その責任を取らないとダメ。
真面目な警官が冤罪をいいとは思っているとは思わない。なぜ警官が嘘を言うかというと、嘘を言わないと警官でいられなくなるからです。組織として冤罪を作ったら、組織として有罪にしないとおかしいとなるから、嘘の証拠も作るし、裁判にで堂々と嘘が言える。もしそれが許されるとなったら、真面目な警官は嫌でしょう。私は真面目な警官を助けるためにも、嘘をついた警官は責任を問うべきと思います。証拠を隠したり、捏造した警官は責任取るという法律を作ってあげたい。
映画を久々に見て、23年前は私も本当に若かったですね。今、私は73歳になりました。私、年の取り方がわからなくて困っていたんですよ。29年も刑務所に入ってましたから(笑)。どうやってジジイになったらいいんだろうと。実は去年秋に癌が見つかり、食事療法で12キロくらい痩せました。それで今は「ああ、年寄りっぽくなったな」と思っています(笑)。
今日はまず「夜明けのさっちゃんズ」という、毎月西成の難波屋で14日前後にライブをやっていて、私も少し歌わせてもらっている皆さんの演奏で、2曲ほど歌わせてもらいます。
私、子供の頃から美空ひばりさんが好きでした。今日はシャバに出てきて初めて美空ひばりさんの「りんご追分」を歌います。「刑務所バージョン」で歌います。(「りんご追分」熱唱)
◆苦しみ、いつでも来い!
本当にお袋を思い出すとダメですね。親父の時はそうでもなかったが。お袋が死んだ時、悲しくて体の中を風が吹いて行きましたね。帰る故郷を失ってしまった。お袋が死んだ時、春風が吹いていたんです。「なんでお袋が死んだのに、春風が吹くんだって」。それが「記念日」という詩になりました。
刑務所の中で、私、詩人だったんですよ。刑務所の中では、例えば、寒さが見えるんです。寒い時、自分の体温と外から寒さが押し合いするのが見える。辛いですね。暑い時は暑いと眠りながら感じる。でも本当に辛いのは人の心です。看守の意地悪さとか仲間同士の諍い、それが本当に辛くって。でもそんな中で、私は国民救援会から「頑張りなさい」と支援していただいた。その人たちの心の優しさが嬉しい。辛い中で嬉しい。それで詩を作りました。
今はなかなか詩が作れない。奥さんは優しいし美人だし(笑)。いつも仲間たちと支えあって、好きな時に風呂入れて、好きなもの食べれて。そういう中で詩はわかない。だから私はいつもいうのです。「苦しみ、いつでも来い」と。幸せなんか価値がない、いや、幸せも大事だが、それだけでは詩とかは生み出さない。辛いことがあったら、それを乗り越えるから、人間はいろんな思いが出るのです。
もしも今、辛いことがある人は喜んでほしい。何かがあなたの中で生まれるでしょう。苦しいことに出会ったらラッキーと思ったらいいです。乗り越えたら、人生の中に絶対いいことがあると思ってます。でもなかなかそうこないです、苦しみって。わたしは23年間シャバで生きていて、苦しいことがなかなかない。でも毎日幸せだったら、つまんないでしょ? こんな人生。だから今、癌になって嬉しいんです。だってこれを乗り越えたら、なんかいいことあるじゃないですか。(後半に続く)
◎[参考動画]【アンコール上映】ドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』予告編
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58