「10・12水害」で50万トンを上回る災害廃棄物が生じた福島県。本宮市で生じた災害廃棄物で600Bq/kgを超えたために県外搬出が見送られていた事、新潟県五泉市での焼却処理のために運び出された廃棄物の測定結果も含めて県民に広く周知されていない事については「民の声新聞」2月16日号(リンク)で報じた。

その後も、少なからず汚染されている災害廃棄物が100Bq/kgを下回っているという理由で新潟県へ搬出され続けている事が、改めて情報公開制度で入手した文書で分かった。

◆受け入れ先自治体との調整が行われているものの結果が黒塗りされた開示文書

今月3日付で開示されたのは、2月と同じ「県外搬出調整中の市町村における災害廃棄物の放射能測定結果一覧」。

2月12日に開示された際には昨年12月に測定した本宮市内の2か所の仮置き場での測定結果のみが示され、開示時点で「受け入れ先との調整が進行中」(福島県一般廃棄物課)のものに関しては黒塗りになっていた。

今回は、それに加えて石川郡石川町(昨年12月2日測定)と伊達市(今年2月18日測定)に仮置きされた災害廃棄物の測定結果が開示された。今回も、受け入れ先自治体との調整が行われているものの結果は黒塗りされた。

福島県から開示された放射能測定結果一覧。県民には公開されていない

開示文書によると、石川町総合運動公園「クリスタルパーク」に仮置きされた災害廃棄物では、「紙くず」が最高で36・3Bq/kg、「木くず」は最高で27・1Bq/kgだった。

これらのうち90トンが3月11日から3月末まで、車で新潟県三条市の「清掃センター」に運ばれ、燃やされた。

また、伊達市「やながわ希望の森公園」の災害廃棄物は、「紙くず」で最高67・6Bq/kg、「木くず」では最高で23・0Bq/kg。このうち70トンが新潟県新発田市の「新発田広域クリーンセンター」で既に燃やされている(測定値は、いずれも放射性セシウム134、137の合算)。

◆「なぜそんな事を尋ねられるのか分からない」と当惑した口調の新潟県三条市環境課

福島県一般廃棄物課の担当者によると、災害廃棄物を県外で燃やすために搬出する場合、「目安」として「100Bq/kg」という基準を自主的に設けているという。「東日本大震災以降、他県も100Bq/kgを県外搬出の目安としていると聞いています。原子炉等規制法に基づくクリアランスレベルも参考にしていますが、あくまで『目安』です」(担当者)。今回の測定結果はいずれも100Bq/kgを下回るため、「問題無し」と判断されて新潟県で燃やされた。しかし、県外処理の具体的な中身や放射能測定結果も福島県は記者クラブには〝投げ込み〟するものの、ホームページなどでは周知していない。

それは受け入れ側でも同じ。新潟県三条市環境課に電話取材すると、「お互い様だから、困った時に災害廃棄物を受け入れるのは当たり前です。今回は石川町とまず3月末までの受け入れについて金額も含めて契約を交わし、4月以降も来年3月末まで受け入れる契約を再度、交わしました。災害廃棄物ですし、安全上問題は無いので、特に市民への周知も記者発表も行っていません」と担当者は答えた。

担当者は、明らかに「なぜそんな事を尋ねられるのか分からない」と当惑した口調だった。筆者が「せめて市民に周知する必要はあるのではないか」と何度も口にすると「検討させていただきます」と言って電話を切った。

水害で生じた災害廃棄物が仮置きされている「本宮運動公園」。量はかなり減ったが、背景には県外も含めて燃やしている現実もある

◆福島県の〝焼却主義〟に警鐘を鳴らす「ちくりん舎」

新潟だけでは無い。県外に運び出すものについては福島県が放射能測定するが、県内で処理されるものは測定すらされずに焼却炉で燃やされる。なぜ測らないのか。福島県の担当者は、こう説明する。

「水害に伴って生じた〝生活ごみ〟ですので、日ごろ福島県内で燃やされている一般ごみと(放射能汚染という意味では)何ら変わりません。少しずつ始まった家屋解体の廃棄物も同じです。県外に持ち出すからといって、本来は測る必要は無いのかもしれません。ただ、受け入れてくれる側(今回であれば新潟県の市や組合)から求められた時に備えて、搬出する側として自主的に測っているのです」

むしろ、福島県にとどまらず、広く測定を続けるべきなのではないか。そして、焼却前提での処理を続けて良いのだろうか。

放射能測定などを通じて原発事故後の福島をウォッチし続けている「NPO法人市民放射能監視センター・ちくりん舎」副理事長の青木一政さんは「焼却せず、コンクリートで囲まれたごみ処分場などで保管するしかありません。設置場所など実現に大変な問題があることは分かりますがこれが原発事故の現実です」と、福島県の〝焼却主義〟に警鐘を鳴らしている。

「汚染された廃棄物を焼却炉で燃やすと、排ガスとして出てくる細かい灰の粒子(飛灰)の放射性セシウムは、約200倍濃縮されることが一般的に知られています。県外搬出が見送られた192~662Bq/kgで単純計算すると、3万8400~13万2000Bq/kgと高濃度に濃縮されるのです。焼却炉にはバグフィルターが付いているので大丈夫だと言われますが、それでは粒径1ミクロン以下の微粒子を補足する事は出来ません。フィルターをすり抜けて焼却炉周辺に飛散する事が、私たちの『リネン吸着法』での測定でも明らかになっています。直近の私たちの調査では、リネン吸着法で捕捉した微粒子はほとんどが水に溶けない事も分かりました」

福島県は、原発事故後に環境省が設置した仮設焼却炉も使って処理する方針。市民団体からは「燃やさずコンクリートで囲まれた処分場で保管するべき」との声もあがっている(福島県の「災害廃棄物処理実行計画」より)

不溶性放射性微粒子については、「子ども脱被ばく裁判」で証人尋問を受けた河野益近さん(京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員)が「呼吸で肺に取り込んだ場合、体外に排出されにくく、長期間にわたって沈着する。しかも内部被曝の評価方法が確立されていない」などと危険性を訴えた。

青木さんも「災害ごみとはいえ、ほとんどのごみには残念ながらセシウムが含まれています。焼却灰を食べるわけではないから100Bq/kg以下ぐらいであれば問題ない、というのは大きな間違いです。焼却炉の煙突から漏れてくる放射能を含んだ細かい粒子を吸い込むことは危険です」と語る。

「新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は経済と国民の生命を天秤にかけて大胆な拡大防止策を講じることを躊躇していますが、放射能ごみ問題も全く同じです。多くの人が声をあげることでしか政府の経済優先・人命軽視の政策を変える事は出来ません」と青木さん。しかし、福島県は水害で生じた災害廃棄物の焼却を続けている。しかも、原発事故後に環境省が県内に設置した仮設焼却炉も使い始めた。マスクで防護する必要があるのは、新型コロナウイルスだけでは無さそうだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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