◆コロナ自粛で明らかになった経済の本質とは、「消費」である

新型コロナウイルス対策としての「自粛」によって、現代経済の本質が誰の目にも明らかになったはずである。

経済の本質は「労働」でも「生産」でもない。われわれ消費者の「消費」なのである

その本質は「労働」でも「生産」でもない。あるいは「商品」や「サービス」でもなく、われわれ消費者の「消費」なのである。

店を開けなければ、おカネはまわらない。おカネを使わなければ、社会がまわらないのだ。商品生産も在庫も、労働力も流通も以前と変わりはないのに、おカネがまわらない(消費がない)から食べていけない。そして小規模事業者は資金繰りに行き詰まる。経済とはそもそも、おカネがまわることなのである。

じつに単純な原理だが、その原理をないがしろにしてきた結果、不況でも食べられる(貯蓄がある)人々と食えない(貯蓄がない)人々を、われわれの社会はつくってしまっていた。はなはだしい「富の偏在」である。

政治家たちは、需給バランス(生産と消費)やプライマリーバランス(税収と財政)を信奉する古典主義経済学(旧大蔵省官僚)の経済規律に縛られたまま、富の配分(賃金)を怠ってきたのだ。ピケティが言うとおり、富を独占した者たちは、けっしてそれを明け渡そうとはしない。

◆造幣局はおカネを刷れ!

だが、解決策がないわけではない。ことさらMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)に拠らずとも、事業者(資本家)が借金を返す意志と事業計画さえあれば、銀行は金を貸し続ける。それを国家レベルに行なうのが「赤字国債」であり、カネを行きわたらせる金融緩和・財政出動(リフレーション)である。

企業が事業資金を融資されることを「赤字融資」などとは呼ばないであろう。決算も赤字にすることで、わが国の大手企業は法人税をまぬがれてきた。財務省が言う「国の借金」をひたすらまじめに返済しているのは、われわれ納税者なのである。マクロ経済政策(金融政策や財政政策)を通じて、有効需要を創出するケインズの思想を呼び起こせ。

ちょうどニュースが入った。財務省は5月8日に、国債と借入金、政府短期証券を合計した国の借金が2019年度末時点で1,114兆5,400億円となり、過去最大を更新したと発表した。2020年4月1日時点の総人口1億2,596万人(総務省推計)で割ると、国民1人当たり約885万円の借金を抱えている計算になるという(共同通信)。

べつに何の問題もない。物資不足・食料不足にならないかぎり、ハイパーインフレは来ないのである。もう20年以上もこの議論はやってきたではないか。戦間期ドイツも敗戦後の日本も、物資不足からハイパーインフレを体験したのである。それがまた、好況への起爆剤になったもの史実である。

わが国の資本家と安倍政権は、日本型経営(終身雇用)を解体するいっぽう、その補完物としての労働市場の自由化(非正規)を拡大し、消費経済は逼塞してきた。買い手におカネを配らないで、商品(およびサービス)が売れるはずはない。

そもそも大量生産は大量消費によって支えられる経済構造であるのに、片方を潰してしまったのが80年代以降の新自由主義なのである。日本型経営がじつはフォーディズム(労働者に余暇と賃金を与え、クルマと生活を保証する)であり、労使が共同体として経済成長を達成してきた原理であることを、80年代後期のバブル崩壊によって破壊してしまったのだ。

◆生産者を食べせる賃金が、資本を回転させる

にもかかわらず、安倍政権は「働き方改革」として「同一労働同一賃金」をスローガンに掲げた。この心地よいスローガンを取り入れる安倍総理のパフォーマンスを、われわれは社会主義的な労働証書制として解釈しようではないか。

1991年にソビエト連邦が崩壊し、中国も市場経済(資本主義)の道をきわめた今日、資本主義の政治的代理人が労働証書制を口にしたのである。財界・労働界・諸政党も、そして国民もこれに異論はないという。

共産主義の第一段階(社会主義)における労働証書制とは、工場委員会やコミューン(地区ソビエト)が、この労働者は何時間労働したという証明書を発行し、労働者はその範囲内で自分が必要とする生産物を、労働協同組合の倉庫から取り出すというものである。

資本主義における賃金が労働力の価値(価格)であるのに対し、労働証書は労働そのもの時間数(量)である。資本主義の労働力の価値(価格)とは、労働者が生きて明日も労働者として働ける今日の労働力の再生産費であって、実際に行なった労働の量とは異なる。この差が「剰余労働」であり、資本家が労働者から搾取している。と、マルクス主義経済学は説明する。この搾取をなくせ、というのがマルクスの主張である。

ようするに、資本+労働-賃金=剰余労働(価格)をなくしてしまえば、そこに労働量(労働証書)が残る。それは同一の労働に対して、同一の賃金で報いるということだ。

それでは、安倍政権の提唱する「共産主義の第一段階(社会主義)」は、どうすれば実現できるのだろうか。大目標(共産主義的にいえば最大限綱領)ではなく、最小限綱領(実現可能な政策)として、可能性はあるのだろうか?

方法はそれほど難しくない。国民(成人)ひとりあたり20万円のベーシックインカムを実施し、年間40兆円といわれる企業の内部留保を財源に充てればよいのだ。それができない企業は潰して(国有化して)しまえ。

問題は「同一労働同一賃金」を時間で測るのか、それとも労働の質を「同一労働」とするのかであろう。いますぐに、政府は「自粛後」の生活資金を支給せよ。配るカネがない? いや、刷ればいいのだ。


◎[参考動画]【財源の話】れいわ新選組代表 山本太郎(2019年国会質問&スピーチ集より)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る