安倍政権が「検察庁法改正案」の今国会での成立を、見送る方向で調整に入ったという。政府高官が5月18日に明らかにしたところによると、準司法権(検察)の独立を脅かす恐れがあると同改正案に反対する世論が高まる中で、採決を強行して批判を招くのは得策ではないと判断したようだ。自民党関係者も「検察庁OBの反発で官邸内の風向きが変わった」と話したという(18日、朝日新聞WEB報)。


◎[参考動画]“検察庁法”成立見送る方針 政府与党世論に配慮も(ANNnewsCH 2020年5月18日)

政府筋によると「束ね法案」になっている「国家公務員法改正案」などと併せ、秋に開会が予想される臨時国会で仕切り直す考えだという。これで、自己保身の「卑怯な法案」にたいする民意が、政権を追い詰めたことになる。新型コロナウイルス防疫の危機管理失敗によって、もはや死に体となっている安倍政権にとって、秋の舞台があるかどうかであろう。朝日新聞は18日、世論調査を発表した。以下のとおりだ。

▼「検察庁法案」反対    64%
        賛成    15%

▼同法案を急ぐべきではない 80%
        急ぐべきだ 5%

▼同法案に関する総理の説明を
       信用できない 68%
       信用できる  16%

▼「安倍総理はコロナ対策に指導力を発揮しているか」
していない         57%
している          30%

▼「安倍政権を支持しますか」
しない           47%
する            33%

前信において、安倍政権の私利私欲を担保する「卑怯な法案」、そして三権分立をも揺るがしかねない前代未聞の暴挙は「自民党の凋落を招きかねない」と指摘したとおりだ。まさに「消えた年金」いらいの党的な危機感に、安倍政権も法案成立延期へと舵を切らなければならなかったのである。

◆「戦後レジームからの脱却」は頓挫した

今回の「卑怯な法案」が日本という国家の基本的な枠組み、すなわち戦後民主主義の三権分立を侵すものであったこと。それはとりもなおさず、安倍晋三の「戦後レジームからの脱却」の内実が、近代民主主義の破壊にほかならなかったことを端的にしめしたのである。
そしてそれ以上に、新型コロナによる「国家的な危機」にもかかわらず、みずからの刑事訴追の回避を画策するという、あまりにも情けない策謀に国民は怒りを隠さなかった。芸能人たちの公然たる批判、検察OBの明快な指弾をはじめ司法人たちも声をあげ、安倍総理の暴挙を批判したのである。

「安保法制の時とおなじく、何も変わらなかったと思えるはずです」などと、安倍総理は国民の怒りの声をいなそうと懸命だった。何ごとも上からの統制や変更に、わが国民が唯々諾々としたがうと思い込んできた安倍総理にとって、ここ数日間は悪夢のような事態だったにちがいない。

これでいちおう、わが国にも民主主義社会が根付いていることを、われわれも知ることが出来た。「ほかにふさわしい政治家がいないから」とか「経済政策に期待したい」などという虚構ないしはネグレクトされた国民の政治観・政治家観に乗って、選挙でのずば抜けた強みを発揮してきた安倍政権も、いよいよ先行きが見えてきたのである。

このうえは、ウイルス防疫に失敗することで日本経済を崩壊の危機に陥らせた「戦犯」として、最終的な引導を渡すのでなければならない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る