「斜陽産業ですけど、出版界って憧れますね。何社か受けたんですけど、すべて落ちちゃいましたけど」
若い女性が喋る声が、喫茶店の別の席から聞こえてきた。なるほど、若い人もそんなふうに思っているのか、と感心する。
自分でもそう思う。稼げる時代は終わったが、やはりライターは最高だ。人を成長させるのは、人との出会い、本と旅だと言われる。ライターの仕事には、その3つが含まれている。

長引く出版不況の中で、消えていったライターも多い。ライターに必要な特性とは何かを考える上で、彼らの特徴を思い出してみよう。

まず、遅刻する。著名な写真家のインタビューに遅れてきた豪の者もいた。ライターは、考えるのが仕事。頭脳さえあれば、どこでも仕事になる。早めに待ち合わせ場所に行っても、時間の無駄にはならない。遅刻するのは、それが分かっていない、というのだ。

仕事に身を入れない。新人をインタビューに連れて行った時のことだ。新人といっても30歳を超えている。「君が質問して僕が補足する? それとも僕が質問する?」と聞くと、「誰がやっても同じですから、先輩が質問してください」と答えた。こういう者には、何も教えてやろうという気にはならない。

仕事に自信を持たない。アダルトビデオのレビューを書いていた新人ライターは、たまたま友人に原稿を見られ、「おまえ、こんなことやっているの」と嘲られ、原稿を仕上げないまま、どこかに行ってしまった。姿を現したのは、締め切りをとっくに過ぎた1カ月後だった。その場で踏ん張れない人間が、上を目指せるわけがない。エロ業界にいた頃、「本当はエロは嫌いだけど、仕事だからエロをやっている」という態度を取るライターがあまりにも多かった。ことごとく消えた。饅頭は嫌いだが仕事だから饅頭を作っているという饅頭屋から饅頭を買う人はいない。むしろウソでも、エロが好きだ、という姿勢を取るべきなのだ。筆者は本当にエロが好きだけど。人間だもの。

仕事をおもしろがれない。編集者から転向したライターを、「淫乱バスツアー」に取材に行かせた時だ。料金は先払いで振り込んだが、来るはずのバスが来ず、業者に電話しても繋がらなくなっていた。詐欺だったのだ。騙されたということを記事にしてくれと頼んだが、「そんなのは嫌だ」と断る。そういうことこそ面白いのにと怪訝に思い、筆者が引き受けた。警察に被害届を出しに行き、刑事にさんざんからかわれた顛末を記して、面白い記事に仕上がった。その人物はライターを諦め故郷に帰り、何事もない平穏な日常を送っている。

こう見てくると、ライターの適性とは、他の仕事の適性と変わらない。確かにその頃を思い出してみると、他の仕事には就けない者がライターになる、という時代であった。
当たり前の人間がライターになるという時代になったのは、よいことだ。
志のある若者は、どんどんこの世界に入ってきてほしい。

(深笛義也)