◆安倍総理の名でカネを配っていた河井夫妻は7月8日に起訴される見通し
マスコミ報道によると、河井案里容疑者が選挙スタッフに、少なくとも200万円の違法な報酬を支払っていたことが明らかになった(捜査関係者情報)。
これによって、案里容疑者の公職選挙法違反は決定的になった。広島選挙区の自治体首長への「陣中見舞い」など、名目不明の「買収」とは異なり、原則無報酬の運動員に報酬をあたえる、直接的な違法行為であるからだ。
とくに河井克行容疑者においては、法務大臣として公選法を熟知していながらの確信的な犯行である。悪質極まりないというべきであろう。この結果、河井案里容疑者と河井克行容疑者は、7月8日に起訴される見通しだ。
◆主導したのは安倍総理ではないのか?
そもそも自民党総裁としての安倍総理の参院広島選挙区へのテコ入れ自体、みずからに批判的な(安倍総理のことを「過去の人」と発言)溝手顕正氏を追い落とすことにあった。名目的には2議席獲得を掲げながら、案里容疑者に1億5,000万円もの軍資金(政党助成金=血税である)を投入し、溝手顕正氏陣営の有力者を狙い撃ち的に買収するという、まことに不格好かつ強引な手口であった。その結果、割を食ったのは自民党広島県連および溝手氏である(下記の選挙結果)。
当選 森本真治 無所属 現 329,792票 32.31% 立憲・国民・社民・連合推薦
当選 河井案里 自民党 新 295,871票 28.99% 公明推薦
落選 溝手顕正 自民党 現 270,183票 26.47% 公明推薦
その実態も明らかになっている。
「現金を受け取った自民党の地方議員らが、克行容疑者の妻案里容疑者(46)の推薦はがきを用意するなどの支援に動いていたことが3日、関係者への取材で分かった」(中国新聞、7月4日)という、カネで裏切りを強要するものだった。
まさに党本部と官邸の思惑どおり、安倍一強・党本部支配が貫徹され、総理に逆らう者は血祭りにあげられるという個人独裁制を党内外にアピールしたのである。
だがそれは、総理官邸(および党本部)の犯罪でもある可能性が高いのだ。現金を受け取った北広島町の宮本裕之町議会議長は「しんぶん赤旗」の取材にこう答えている。
「受け取ってはいけない金と思ったが、安倍総理の名前を出して強引に渡され、返せなかった。後悔している」(7月5日付)
府中町の繁政秀子町議も「『安倍さんから』と30万円入った封筒を渡された」「『もらえない』と拒否したが、安倍総理の名前を聞いて断りきれなかった」(前出)と証言している。まさに、総理の名による買収だったのだ。
◎[参考動画]「安倍さんから」河井夫妻“買収”めぐり証言続々と(ANNnews 2020年6月25日)
◆買収目的公布罪の立件も視野に
共産党の志位和夫委員長は、安倍総理に「買収目的公布罪」の疑いが浮上したとしている。いや、安倍総理の犯罪を指摘するのは、ひとり共産党だけではない。元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士も、河井夫妻に現金を供与した自民党関係者に「買収目的交付罪」が適用される可能性に言及している。
郷原氏は「それ(買収)が行われることを認識し、目的を持って金銭の交付をする行為は交付罪になる」と説明し、「交付を決定した人」が罪に問われる可能性を指摘した(立憲民主、国民民主、共産、社民の野党4党の「実態解明チーム」の会合で。6月24日)
その「買収目的交付罪」の条文を挙げておこう。
「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。」(公選法221条1号)
「第一号から第三号までに掲げる行為をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。」
(公選法221条5号)
「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」(公選法第十六章 罰則【買収及び利害誘導罪】)
そしてこの犯罪の構成要件をみたす、重要な事実関係も明らかになっているのだ。すなわち、このときの選挙で安倍総理の秘書団が、河井陣営を支援するために広島入りしている事実である。
安倍秘書団は河井陣営の先頭に立って、溝手顕正氏陣営の有力者の切り崩しに奔走したとされている。また、河井陣営の運動員を引き連れて企業回りをしては、安倍総理の名を出して強引に面会をもとめたという。
◎[参考動画]検察は“ルビコン川”を渡った!河井前法相事件、今後の展開は?(郷原信郎の「日本の権力を斬る!」#19 2020年6月23日)
◆カネの動きは明白である
参院選前に党本部から計1億5,000万円が送金されていたのは、すでに動かない事実である。検察はこの1億5,000万円の一部が違法報酬の原資になった可能性があるとみて調べているという。
そもそも河井容疑者の自己資金(歳費4,200万円)と自民党から交付された選挙資金(1億5,000万円)に、区別がつくものなのだろうか。検察がいまこの区別をつけようとしているのは、自民党本部および官邸にその責を及ばせようとしているからにほかならない。
森友・加計疑惑、そして桜を見る会における公選法違反疑惑、そして河井選挙買収事件においても、安倍総理(総裁)の関与が疑われている。そうであるがゆえに、安倍総理は賭博常習者の黒川弘務の定年延長を押し通し、検事総長に押し上げることでみずからへの訴追を回避しようと画策したのである。もはや安倍総理の逃げ道は、巷間噂されている今秋の解散総選挙による訴追逃れしかないのかもしれない。
◎[参考動画]2020年6月30日 野党合同国対ヒアリング「河井買収事件実態解明チームヒアリング」(原口一博 2020年6月30日)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。