都知事選挙で、ニワカに脱原発を唱えて立候補すると表明した細川元総理を、何を血迷ったのか、反原発を長年にわたり訴え続けた広瀬隆と鎌田慧が支持すると言い出した。
この細川元総理は、90年代に新党ブームを作り、そのさい、自民党と喧嘩して離党した小沢一郎元自民党幹事長の協力を得て、政権交代を実現し総理となったが、期待をさんざん集め高支持率を獲得しておいて、中途で投げ出し辞任してしまった。その背景には、猪瀬都知事が辞任する原因を上回る経済スキャンダルがあった。
そのうえ彼は高齢である。石原元知事も、最初は威勢が良かったが、七十代後半になったらさすがに体力と気力が衰退したようで、登庁すら満足にしなくなった。そして引退するつもりが息子に頼まれて再任し、途中で辞めた。なのに、細川元総理は、現在すでに七十代半ばである。これではやはり立候補表明している舛添元厚労相のほうが、最後までやりそうだ、というだけでもマシであろう。
ところが、そんな細川元総理を、やはりニワカに脱原発を唱えた小泉元総理や小沢元幹事長が応援するというので、有力だから勝ち馬に乗れると応援する「反原発派」の人々がいる。そこへ広瀬と鎌田の両氏まで加わった。
この「反原発派」たちの中には、普段から「広瀬隆はバカ」「広瀬は頭が悪い」などと悪口を言いまくっている団体(団体名に花の名前を付けている)の人たちがいることを、反原発の集会などに行ったことがある者なら知っているが、そんな人たちと平気で組むのだから、たしかにお人よしというか間抜けというべきではある。
また、細川、小泉、小沢、といった政治家たちが、これまで原発を推進したうえ、反対運動つぶしに熱心だったか、この事実を最も良く知っているのは広瀬と鎌田の両氏であるはずだ。二人は、著書の中でそうした政治家たちを糾弾し続けてきた。
それを、ニワカに脱原発と言い出しただけで支持してしまう。それなら、舛添元厚労相だって同じである。しかも、自民党から離党した細川と小沢の両氏とは違い、彼は除名されている。
もちろん、特に広瀬隆はテレビの討論番組「朝まで生テレビ」に出演し、チェルノブイリ事件があっても原発推進を強弁する舛添要一と直接対決した経験から、舛添を憎む感情が強く、舛添さえ落とせれば誰でもいいと考えたりもするだろう。
それにしても、細川を有利にするため、その支持者たちは、先に立候補を表明していた宇都宮元日弁連会長に、降りろと言い出した。もともと大組織の後ろ盾が無きに等しい宇都宮弁護士は、前回の選挙で落選しているが今度こそと立候補すると言い、それを一部の政党と団体と著名人が支持している。これに対して、なんとしても勝ちたいから「票を譲って下さい」と素直に頼み、また選挙での協力を求め、その代わり政策も受け入れるからと取引をもちかけるべきところで、「どうせ当選できないから降りろ」では話にならない。これでは、候補統一のためなら「協力しても良いかな」と考えていた人でも、反発して受け容れないだろう。
つまり、細川応援団は、自分が言っていることを、わざと上手くいかないようにしているのだ。これをしているのが、反原発の旗手だったモノカキたちであり、しょせん社会派ライターなんて批判を商売にしているだけで、社会に対して現実的な働きかけをする気がない、ということである。
そして、だから変節してしまったと思い勝ちだが、そうではない。あの世代の今では老齢なモノカキたちは、自分たちがマスメディアに登場するという意味で功成り遂げたから、社会の中で指導的な立場にいて、それに市民が影響されるだけでなく従うのも当然だと思い上っているのだ。
たしかに、昔はそういう時代があった。そして、そんな連中が居座り続けたので、社会派といわれるマスメディアが、良識ある市民から次第に相手にされなくなってしまった。そうなって久しい。
そのうえ、今では発信力のある人と、そうでない人との垣根が無くなっている。特に市民の側からのカウンター活動は、そうである。それすら気づかない老害を撒き散らす大昔の思いあがった社会派たちは、さっさと隠遁するべきである。
( 井上 靜 )