◆大阪維新は、センターからの野宿者追い出しをやめろ!
7月6日、昨年閉鎖されたセンター前に組合のバスを置く釜ヶ崎地域合同労組や、北西角に団結テントを設置する仲間に、「土地明け渡し請求事件」の訴状などが届いた。「出ていけ!」と訴えるのは大阪府だ。コロナ災いが続く中、センターから野宿者を追い出したいのは、都構想とリンクする西成特区構想を前に進めたいがためだ。
西成あいりん総合センンター(以下センター)は、昨年3月31日閉鎖予定だったが、当日大勢の労働者、支援者が「シャッター閉めるな」と声をあげたため閉鎖できなかった。翌日から始まった自主管理活動には、全国から支援の声・物資・カンパなどが届けられた。4月24日、国と大阪府は警察がタッグを組み、センター内の労働者らを暴力的に排除したが、それ以降も大勢の野宿者がセンター周辺や釜合労のバスで寝泊まりし、炊き出しや寄り合いなどの支援活動も続けられている。
そんな中、今年2月5日、大阪地裁の執行官は、大阪府、市の職員、警察とともにセンターを訪れ、野宿者に土地と荷物などを「執行官に引き渡せ」という「仮処分決定書」を手渡し、野宿する路上に「告示書」を打ち付けていった。
大阪府はこの申し立てを、昨年12月26日に大阪地裁に行っているが、その3日前の23日には、センター解体後にできる広大な跡地をどうするかを検討する「まちづくり会議」で、センターに入っていた2つの労働施設、「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」(現在、隣接する南海電鉄高架下に仮移転中)を、跡地の南側に移転することが決まったばかりである。国道に面し、使い勝手や立地条件の良い北側の広大な跡地には、観光バスの駐車場やタクシー乗り場や外国人向けの屋台村を作るなどの案が出たという。
そもそもセンターは1970年、「あいりん地区の日雇い労働者の就労斡旋と福祉の向上」を目的に設置されたものだ。中には2つの労働施設の他に、水飲み場、足洗い場、シャワー室、洗濯場、娯楽室など最低限のライフラインが備わっていたうえ、地区内では毎日どこかで炊き出しが行われていることから、職や住処を失った人も、ここに来れば、どうにか生きていくことができた。しかし新たにつくられようとしている「まち」には、そうした労働者の居場所はない。
◆大阪維新行政・だまし討ちの手口
釜ヶ崎を追い出された労働者はどこへいけばいいというのか! 長引くコロナ禍のもと、苦境に立たされている若者や非正規雇用労働者を助けることも重要だが、そのためにもともと釜ヶ崎にいる野宿者やおっちゃんらを切り捨てる、あるいはそれに加担することにな るのであれば、元も子もないだろう。
訴状には稲垣浩氏ほか21名(計22名)の氏名が漢字かカタカナで書かれているが、これは昨年11月、大阪府や大阪市の職員らが、福祉相談を装って名前を聞き出したものだという。しかしその際、本人には何に使うかなどの説明はなかったという。自分が訴えられるなら、名前を明らかにすることに躊躇した人もいるはずだ。自分の名前が書かれた「告示書」が目の前に釘で打ちつけられ、怖くなり他の地に移動した野宿者もいる。だまし討ちのあまりに酷いやり方だ!
◆労働者の健康など全く考えていない大阪行政のご都合主義
閉鎖前、早朝センターのシャッターが開くと、大勢の人たちが荷物を運び入れ、ゆったり一日中過ごしていた。その数は1日50人から80人。野宿者だけでなく、働けなくなり生活保護を受けるようになった人たちも、大勢センターに集まっていた。「Aはたいがい2階の娯楽室で将棋さしてるで」「Bを探してるんか? アダチ(センター前の酒店)の前に夕方いるで」「次の日曜日、三角公園でプロレスあるで。もちろんタダや」等々、センターはまさに仲間とつながり、情報を交換し合う社交の場だった。
センター閉鎖後、行政はそうしたセンターの代替場所の1つとして、センター南側の萩の森跡地に居場所を作った。運動会で使われる白いテントを数張り置いただけだが、雨の日も真夏でも労働者は集まってきた。その萩の森跡地のテントが最近、「整備のため」と撤去され、近くの萩の森北公園(旧仏現寺公園)に移された。しかし3、4張りあったテントは1張りだけ。未だコロナ禍は収束せず、感染拡大の危険性が叫ばれる中、テントは結構「蜜」な状態だ。行政が、釜ヶ崎の労働者の健康や体のことなど全く考えていない証拠だ。
聞けばこの公園は、1977年、炊き出しや寝泊りしていた労働者が、大阪市に行政代執行で追い出された所だ。それ以降は子供達の遊び場として遊具が設置され、朝鍵が開けられ晩には鍵がかけられていた。それが今回は「居場所に使え」だと。行政の都合で「不法」になったり、「適法」になったり、ご都合主義も甚だしい。
◆コロナより都構想の大阪維新の給付金対策とは?
コロナ対策の特別定額給付金の支給も大阪が一番遅れている。大阪都構想を進める副首都推進局の職員数80名以上に対して、特別定額給付金を担当する市民局の職員数が18名と非常に少ないことも理由の1つだろうが、市民局がどこにあるかも「非公開」にするなど、吉村知事、松井市長のコロナ対策はあまりにいい加減過ぎるからだ。
現在、様々な団体、個人などが「全ての人に給付金を支給するように」と訴え、交渉を続けている。直近の交渉で大阪市は、NPOやシェルターなどに住民票を移し、申請書を受け取る案で調整中だそうだ。それで給付金が受けれるならば、大いに利用すればいいが、問題なのは、その後そこに居住実態がない場合、再び住民票を削除するということだ。
これはかつて、大阪市が、住民票のない労働者らが各種資格、免状、日雇い労働者被保険者手帳などを取得する際に、釜ヶ崎開放会館や市民団体の住所に住民票を置くことを積極的に勧めておきながら、2007年一方的に2088名の住民票を強制削除したことと同じことではないか?
私が弁当を配り始めた5月頃、センター南側の路上で、開放会館においていた住民票を削除された労働者に実際会った。あれから13年経ち高齢化したため、野宿しながら、銅線、鉄、アルミ缶などを集め、日に千円稼ぐのが精いっぱいとこぼしていた。大阪市はまずは、この2088名の住民票を復活させろ!
このままでは、給付金がもらえない人が出てくることは必至だ。何度もいうが、おぎゃあと生まれた赤ちゃん、DVで住民票がある場所から避難する人、無戸籍者にも給付金は支給される。住民票がない人に対して、住民票すらまともにとれない酷い生活をしてきたから「自業自得」という人もいるが、じっさいに何らかの罪を犯し刑務所に服役する人も、そして労働者の血税を好き放題むしり取る悪の親玉、安部や麻生にも一律に支給されるのが給付金だ。それなのに、なぜ住民票がないくらいで、給付金支給の権利が奪われなければならないか? すべての人に給付金を渡すため、大阪市は1人1人の野宿者から氏名を聞き出し、戸籍などを確認する作業を必死で行え!
住民票がないとの理由で、給付金が支給されない人が出ることになれば、「全国すべての人々へ」という給付金支給の理念を著しく逸脱する大問題になるだろう。
◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58