11月17日、ツイッターで中傷的なイラストなどを投稿され、名誉を傷つけられたとする裁判がいよいよ開廷した。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが漫画家のはすみとしこ氏ら(ほかリツイートした男性2名)に、計770万円の損害賠償を求めた訴訟である(東京地裁民事部、小田正二裁判長)。事件の詳細は、本通信8月24日「伊藤詩織氏がセカンドレイパーを提訴『ツイート』の『いいね』も民訴(損害賠償)の要件になるか?」を参照されたい。
◎[参考動画]伊藤詩織さん「魂を傷つけた」 中傷イラストめぐる裁判(FNN 2020年11月17日)
伊藤氏は冒頭陳述で「性被害の被害者をセカンドレイプといえる言動で攻撃する人が大勢いる。私の被害を正面から受け止めてほしい」「私が意図的に相手を陥れるためにしたと言わんばかりのイラスト」だと述べ、「なんとか被害から立ち直りたい、日常を取り戻したいという私の思いは踏みにじられた」と訴えた。被告のはすみ氏は出廷せず、答弁書で請求棄却を求めた。
はすみ氏の名誉棄損が直接的で、構成要件を満たすのは明らかだと考えられるが、リツイートが名誉棄損になるかどうか。これが最大の争点であろう。
この点について、伊藤さんは「イラストが拡散されていく様子を思い浮かべると、街を歩くことに大変な苦痛を覚え、帽子やサングラスをかけ、常に周囲を警戒するようになった」と語り、投稿拡散による被害の深刻さを訴えている。
さらに伊藤さんは「性被害の傷とトラウマを抱え回復途中の私にとって、あのイラストを見るのも、イラストについて話すことも、話しているところを他人に見られることも苦痛だった。ただ、インターネットでセカンドレイプに加担する人は大勢いる。私自身が前に進むために、そして、私と同じ被害に苦しんでいる人たちのために、裁判を始めた」と語った。
はすみ氏は今年8月、訴状について毎日新聞の取材に文書で回答している。「(イラストは)フィクションであるため、事実真実と異なって当然」というものだ。
◆根っこにあるのは、自民党の差別体質
伊藤さんは、はすみ氏ら3人のほか、自民党の杉田水脈衆院議員、元東京大学大学院特任准教授の大澤昇平氏を相手取り訴訟を起こしている。
もとは安倍総理お抱えの元TBS記者、山口敬之のレイプ事件(昨年12月18日、東京地裁民事部〈鈴木昭洋裁判長〉は山口に330万円の支払いを命じた)が発端である。その意味では、総理お抱えの物書きを刑事事件から庇護した、国策的な刑事指揮によってこじれた問題が、ここまで派生したものだ。
したがってこの裁判は、旧安倍政権および自民党、そしてその支持基盤の女性差別的な体質を、いやがうえにも暴くものとなるのだ。先進国はおろか、世界でも最低クラスの男尊女卑社会をくつがえすためにも、この問題は継続的に焦点を当てていくべきであろう。読者諸賢には、続報を約束しておきたい。
◆逃亡する杉田議員をゆるすな
そうであるがゆえに、ここで改めて問題にしなければならないのは、杉田水脈議員の「女はいくらでもウソをつける」発言である。杉田議員は当初発言そのものを否定(虚言)し、のちに議事録や証言をもとに、みずからウソを撤回せざるをえなかったものだ。
この問題は単に「女はウソをつける」発言が、女性一般の「名誉」にかかわるのではない。性暴力の被害において、女性が「ウソをつける」から捜査に対策が必要(女性捜査員の必要)であると、杉田議員は責任と権力のある政治的な場から発言したのである。その意味では、単なる差別や名誉棄損ではなく、政治的抑圧なのである。
しかもその発言を、部会のテーマが「女性への暴力の問題」であったにもかかわらず、韓国の慰安婦支援団体の代表の資金運用の疑惑(これ自体、不正使用として訴追されているわけではない)にすり替え、発言を正当化したのである。
これで杉田議員は、二度目のウソをついたことになる。百歩譲っても、女性警察官による性暴力の調査・捜査を論じている場で、他国の社会運動をあげつらうのは的外れ以外のものではない。
それよりも問題なのは、彼女が伊藤詩織さんへのセカンドレイパーとして訴訟を受けている身であることだ。性暴力の被害者から民訴を受けることそれ自体としても、議員にはふさわしからぬ言動の結果である。本通信10月2日の記事「自民党・杉田水脈議員の『女はウソをつく』発言で誰がウソをついていたのか?」参照。
そしてだからこそ、ほかならぬ女性への暴力問題を議題にした会議で「女はウソをつける」などと発言したのである。したがって、杉田発言は自己正当化の卑劣な政治的抑圧、政治倫理にもとる犯罪的な虚偽なのである。彼女が小選挙区で選ばれたのではなく(二度落選)、比例区当選の議員であることを考えるとき、この問題は自民党の自浄能力が問われている。
◆自浄能力なき自民党
ところが、自民党は言を左右して杉田問題からの逃亡をはかっているのだ。
10月13日、杉田議員の議員辞職を求めるオンライン署名を始めた「フラワーデモ」主催団体が約13万6000筆の署名を提出するため自民党本部を訪問したが、同党は署名の受け取りを拒否した。
同団体の要望に当初、自民党は野田聖子議員が対応していた。メールのやり取りで「面談をします。性暴力支援や性暴力被害にあった人たちの声は無視できない」(野田議員)というものだった。だが、この意向はくつがえされた。
野田氏は10月9日に行われたハフポスト日本版のインタビューで、署名を受け取らない理由を「署名を受けて『辞職しなさい』というのは、法律上できないこと。『辞職』と書かれている以上、私にはそういう権限もない。預かっても法律上できないことはちょっと無理です、とお伝えした」などと語っていた。ここへきて稚拙な法律論である。かたちだけでも受け取って、内部討議にかけてみればどうか? やはり自民党は女性差別政党なのだろうか。
[参考記事]
◎杉田氏「女性は嘘をつく」発言で「中傷始まった」。抗議無視する自民党へフラワーデモ参加者の怒りと涙(竹下郁子)
◎伊藤詩織さんついに提訴…杉田水脈議員が暴言連発するワケ(日刊ゲンダイ)
◎問題発言を風化させた「『逆』牛歩戦術」 杉田水脈議員は逃げ切ったのか(下)(全国新聞ネット)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。