新自由主義のミスリーダー、竹中平蔵の利益供与、脱税疑惑が再燃している。
竹中は小渕内閣の経済戦略会議に参画して以降、森内閣でのIT戦略会議、小泉政権では経済財政政策担当大臣と金融担当大臣兼任するなど、いわゆる構造改革・新自由主義の旗振り役として政権の一端をになってきた。安倍政権下においても、ブレーンとして重きをなしてきた。その「業績」は郵政民営化、および格差を拡大した「労働ビックバン」であった。
あの郵政民営化の成果は、違法な保険商品勧誘やマスクも満足に届けられない配達システムの崩壊であった。労働ビックバンにおいては、満足な保証のない派遣労働者の増加をもたらしただけである。国民にふたつの不満をもたらしたのだ。
とりわけ労働ビックバンは、「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」というマーガレット・サッチャーの思想を援用して「高い所得を得ている人がいること自体は解決すべき問題ではなく、努力しても貧しい人たちに社会的救済が必要である」と言いながら雇用問題にすり替えたのである。そこで示した「正社員をなくせばいい」という発言は、わが国の経済不況の核心部、購買力の低下・消費の低迷をもたらした。
◎[参考動画]”日本版オランダ革命”に取り組め/同一労働同一賃金(竹中平蔵のポリシー・スクール 日本経済研究センター2009年)
◆浅薄な経済理解による経済崩壊
「格差が問題なのではなく、貧困論を政策の対象にすべき」としてきた結果は、中間層までも不安定な雇用関係に陥らせる格差の拡大、大企業の内部留保(500兆円)だった。いまや、消費の低下が国民経済を最悪のところまで至らせている元凶となるものが、この竹中による構造改革・労働政策だったというほかにない。
その竹中平蔵がいままた、菅政権の中心的なブレーンとして成長戦略会議に参画している。社会保障を切り捨てる、一知半解のベーシックインカムを提言して反発を買ったのは既報のとおりだ。「とんでもないことをするかも内閣 菅政権の発想が浅薄すぎる件について」(本通信2020年10月27日)を参照。
上記のような雇用の構造改革、派遣労働の法的整備のなかで、ほかならぬ推進役の竹中平蔵が、派遣会社パソナグループ(傘下に70社をかかえる)に天下ったのは、自民党内からも激しい批判が上がったものだ。低賃金の派遣労働者から、みずから経営陣になることで、その血と汗を搾取するという立場に君臨してきたのだ。
そしていままた竹中平蔵は、持続化給付金という政策利権に手を染めているのだ。
◆持続化給付金を吸い取ったのは、竹中平蔵だったのか
持続化給付金の業務が、サービスデザイン推進協議会に769億円で委託され、そこから電通に749億円で再委託されていたこと。その段階で約20億円を中抜きし、電通からはさらに下請け孫請けで実務が行なわれていた。あまりにも複雑怪奇な外注に、自民党の政策担当者も驚かざるをえなかった。
そして、この持続化給付金の業務委託を実質的に請け負った主要企業の一角が、竹中平蔵が会長を務めるパソナだったのである。いや、一次請けの「サービスデザイン推進協議会」それ自体が、元電通社員・パソナの現役社員が名を連ねる、最初から最後まで、税金を中抜きする構造だったのだ。
立憲民主党の川内博史議員は、国会においてこう指摘している。
「社団法人を通じて、電通をはじめとする一部の企業が税金を食い物にしていたわけです。持続化給付金事業に限らず、経産省の事業ではそうしたビジネスモデルが出来上がっている」と。
元国税庁職員だった大村大次郎(経営コンサルタント、フリーライター)は、2020年10月1日付けのメルマガで、以下のように指摘する。
「サービスデザイン推進協議会の中心企業であるパソナは人材派遣企業の最大手の企業です。このパソナは創業以来、大々的に官僚の天下りを受け入れており、典型的な政官癒着型の企業なのです。」
ジャーナリストの佐々木実による竹中氏の評伝『竹中平蔵 市場と権力』は、次のように指摘する。竹中平蔵の本業は慶應義塾大学総合政策学部教授だったが、副業を本格的に始めるために〈ヘイズリサーチセンター〉という有限会社を設立した。法人登記の「会社設立の目的」欄には次のように記されている。
「国、地方公共団体、公益法人、その他の企業、団体の依頼により対価を得て行う経済政策、経済開発の調査研究、立案及びコンサルティング」
フジタ未来経営研究所の理事長、国際研究奨学財団の理事というふたつのポストを射止めた段階で、副業はすでに成功していたといえる。竹中個人の1997年の申告納税額は1958万円で、高額納税者の仲間入りを果たしている。総収入は6000万円をこえていただろう。
小泉政権の閣僚となる前年の2000年の納税額は、じつに3359万円に達している。所得はおよそ1億円程度と推測される。ほかにヘイズリサーチセンターや家族などに分配された利益があるので、政策コンサルタントとして稼いだ収入は莫大なものだ。
そしていまや公然と、派遣最王手パソナグループの会長として、政治を操りつつ蓄財する、いわば政商である。企業人・経済人になるのならそれでもいい。だが、彼の蓄財の源泉は税金なのだ。
◎[参考動画]竹中平蔵 【菅政権の経済ブレーン語る!日本経済復活の処方箋】報道(BS-TBS公式チャンネル 2020/9/23放送)
◆看過できない竹中の脱税疑惑
こうしてみると、竹中平蔵は政界と大企業、および学界にまたがり、国民の血税をかすめ取る吸血鬼のような男ではないだろうか。その竹中平蔵の脱税疑惑は、小泉政権当時から指摘されていた。
前出の大村大次郎は、こう批判する。
「竹中平蔵氏が慶応大学教授をしていたころのことです。彼は住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていなかったのです。住民税というのは、住民票を置いている市町村からかかってくるものです。だから、住民票を日本に置いてなければ、住民税はかかってこないのです。
もちろん、彼が本当にアメリカに移住していたのなら、問題はありません。しかし、どうやらそうではなかったのです。彼はこの当時、アメリカでも研究活動をしていたので、住民票をアメリカに移しても不思議ではありません。でもアメリカで実際にやっていたのは研究だけであり、仕事は日本でしていたのです。竹中平蔵氏は当時慶応大学教授であり、実際にちゃんと教授として働いていたのです。」
ようするに、日本で仕事をしながらアメリカに住人票を置いて、竹中は「節税」をしていたのだ。つまり脱税である。
「竹中平蔵氏は、住民税の仕組みの盲点をついていたのです。住民税は、1月1日に住民票のある市町村に納付する仕組みになっています。1月1日に住民票がなければ、どこかの市町村がそれを知ることはないので、どの市町村も納税の督促をすることはありません。だから、1月1日をはさんで住民票をアメリカに移せば、住民税は逃れられるのです。」「しかし、これは明らかな違法であり、脱税なのです。」
国会でこの件を批判された竹中は、「住民税は日本では払っていないがアメリカで払った」と国会で主張している。しかし、最後まで納税証明書を国会に提出しなかったという。
いた、提出できなったというのが正確なところだ。なぜならば、アメリカにおいても住民税は所得税に連動している。
したがって、「内で所得が発生している人にだけ住民税がかかるようになっているので、アメリカで所得が発生していない竹中氏が、住民税だけを払ったとは考えにくいのです。」(大村氏)
さらに引用しよう。
「当時、税制の専門家たちの多くも、竹中氏は「ほぼ黒」だと主張をしていました。日本大学の名誉教授の故北野弘久氏もその一人です。北野教授は国税庁出身であり、彼の著作は、国税の現場の職員も教科書代わりに使っている税法の権威者です。左翼系の学者ではありません。その北野教授が、竹中平蔵氏は黒に近いと言われているのです。」(前出)
もはや疑惑はかぎりなく黒に近い。脱税をしている人間が、わが国の経済政策を任せられているのだ。しかも血税の使用方法を差配しようとしているのだ。
「泥棒に警察庁長官をさせるのと同じことです。そのことに、マスコミも世間も気づいていなかったのです。そして、結局、このことをうやむやにしてしまったことが、その後の日本に大きな災いをもたらすことになるのです。今回の持続化給付金問題なども竹中氏につながっているのです。」(前出)
諸々の批判に、竹中は「成功者の足を引っ張る」などとうそぶいてきた。いまこそ、あの尊大なまでに柔和な表情が引きつる批判に晒さねばならないだろう。
◎[参考動画]竹中平蔵氏【後編】アフター・コロナに勝ち残るために Part2. 2020年9月17日(木)放送分 日経CNBC「GINZA CROSSING Talk」(ソニー銀行)
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。