個人的に注目している裁判が22日から福島地裁郡山支部で始まる。昨年5月31日の朝、福島県三春町の国道で「ひき逃げ殺人」を起こしたとされる盛藤吉高被告(事件当時50)の裁判員裁判だ。

報道によると、盛藤被告は犯行の2日前まで別の事件の罪で服役。「生活が不安で、刑務所に戻りたかった」という動機から、ボランティアで清掃活動中だった50代の男女2人をトラックでひき逃げし、殺害したとされる。被害者が2人いる殺人事件であるため、死刑適用の可否が争点になる可能性がある。

ところが、裁判所のホームページで公表された審理日程を見ると、公判審理は4回しか行わないという。それが、筆者がこの裁判に注目する最大の理由だ。

◆死刑判決が出るには公判審理の回数は少ないが……

2009年に始まった裁判員裁判は、それ以前の刑事裁判に比べて平均審理期間が随分短くなった。それでも、死刑や無期懲役の判決が出るような殺人事件では、少なくとも10回前後の公判審理があるものだ。また、裁判官、検察官、弁護人が争点や証拠を整理し、審理計画を立てる公判前整理手続きも1年や2年といった長期間に及ぶのが一般的だ。

その点、盛藤被告は昨年6月30日に殺人罪で起訴され、今月(2月)22日から初公判だから、公判前整理手続きは8カ月にも満たない。そして26日までに計4回の公判審理を行って結審。3月11日に判決が宣告される予定という。

これほど迅速に行われる裁判員裁判では、通常、死刑判決が出ることはないし、そもそも、死刑適用の可否も争点にならないものだ。しかし、筆者はこの事件については、むしろ死刑適用の可否は争点になりそうだと予想している。かつて福島地裁郡山支部では、これと同程度に迅速な審理で死刑判決が出た裁判員裁判の前例があるからだ。

◆福島地裁郡山支部では5回の審理で死刑判決が出た裁判員裁判の前例も……

その前例とは、2013年3月14日、同支部の裁判員裁判で死刑判決を受け、控訴、上告も棄却されて確定した高橋明彦死刑囚(事件当時45)のケースだ。裁判の認定によると、高橋死刑囚は2012年7月27日の早朝、福島県会津美里町の民家に侵入し、住人の50代夫婦をナイフで刺殺したうえ、現金やキャッシュカードを奪ったとされたが、その裁判員裁判の公判審理はわずか5回だった。

公判審理は盛藤被告の裁判員裁判より1回多いが、高橋死刑囚は2012年8月17日に強盗殺人罪などで起訴され、初公判は2013年3月4日だったから、公判前整理手続きの期間は7カ月にも満たなかった。公判審理も3月8日の第5回公判で結審し、判決が3月14日なので、結審から判決までの評議の期間は1週間もなかったわけである。

私は、高橋死刑囚が最高裁に上告していた頃に収容先の仙台拘置支所で面会したり、手紙のやりとりをしていた。高橋死刑囚は「死刑判決自体に不満はない」と言っていたが、死刑判決が出るまでの裁判手続きの短さには強い不満を抱いており、こんなことを言っていた。

「公判は月曜日から金曜日まで5日しか審理がなくて、その翌週の木曜日に死刑判決だよ。こんな短い期間でちゃんと審理はできたのか、裁判員たちは考える時間はあったのかと思ったよ。公判の時、裁判員から質問はほとんど無かったしね」

審理の短さに不満を抱いていた高橋死刑囚。『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第14話より

◆国選弁護人が熱心に弁護していない可能性も

高橋死刑囚は一体なぜ、このような短い審理で死刑判決を下されたのか。私は、国選弁護人があまり熱心な弁護活動をしなかったからではないかと考えている。

というのも、この事件では、裁判員の女性が「審理中に殺人現場や遺体の写真を見せられるなどして、ストレス障害に陥った」と主張し、国家賠償請求訴訟を起こして話題になった。その訴訟記録を閲覧したところ、この女性が「弁護人が被告人をまったく弁護しないことにも腹が立った」と書面で訴えていたのだ。

一般論として、弁護人が熱心に弁護活動をしなければ、検察官の思うままに裁判手続きはスムーズに進むので、公判前整理手続きも公判審理も短くなりやすい。それゆえに高橋死刑囚はわずか5日の公判審理で死刑判決を受けたのではないかと私は推察するのである。

そして、私がいま考えているのは、盛藤被告についても同様のことが繰り返されているのではないか、ということだ。高橋死刑囚の例からすると、福島地裁郡山支部の刑事裁判で国選弁護人に選任される弁護士たちの中には、刑事弁護を熱心にやる人が少ない可能性が考えられるからだ。

さて、盛藤被告の裁判員裁判はどのような裁判になるだろうか。

高橋死刑囚が収容されている仙台拘置支所

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を担当した『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)の【分冊版】第14話では高橋明彦との面会物語が紹介されている。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)