◆正に激励、応援の証
プロボクシングやキックボクシングで選手に渡されている激励賞は、歌舞伎で見られる投げ銭、おひねりのように受取る選手にとっては有難い副収入。後援会や職場仲間、学生時代の仲間が多ければ激励賞も増えるが、全く応援者の居ない選手にとっては羨ましい話かもしれない。
激励賞を頂いた選手の中には、「貰えた時は嬉しかった。やはりファイトマネーは安いし、いろいろと経費が掛かりますから。貰った激励賞の封筒は捨てずに今でも大切にとってあります。チケットをたくさん買ってくれた人の名前で、中身を入れていない激励賞に自分で書いて、リングアナウンサーに読み上げをして貰いたくて出したこともあります。」といった感謝の想い出や、「激励賞頂いたら勝ち負け関係なく、試合翌日に手紙やメールではなく電話で御礼を言え!」という先輩からの忠告もある中、激励賞を贈ってくれた応援者を訪ねての律義な御礼参りを欠かさない選手も多い。
◆空っぽの激励賞
試合前にリングアナウンサーによって贈り主の名前を呼び上げ、リング上で選手に渡される激励賞の多くは、すでに中身が抜かれているのは多くの関係者が知っている事実。盗難や紛失を未然に防ぐ狙いがあるが、激励賞は贈り主が直接選手に渡されたり、会場入り口で受付があればそこで渡されたり、控室へ向かうことが許されればそこで選手やセコンドなど側近に渡される流れとなります。
かつての目黒ジムでは、会場で激励賞を頂いた後、トレーナーが選手本人の前で中身を抜いて直接本人にそのお金(全額)を渡し、その後リングアナウンサー席まで空っぽの祝儀袋を渡しに行くいうシステムが出来ていたという。多くのジムもトラブル防止に似たことやっていると考えられ、選手自身がリングアナウンサー席まで届ける光景もよく見られます。
昭和の時代にはこんな綺麗ごとはない、あって欲しくない事態も発生していた様子。盗難とはまた別事情の、陣営の手によって選手に渡るまでに中身を抜かれる、または1万円だけ残して残りを自分の懐に入れるといった事態もあったようである。
贈り主が大雑把にジム関係者に手渡しされると、元々幾ら入っていたか解らなかったり、激励賞そのものを贈られたことを知らされないと「何だあいつは、礼儀知らずめ!」と思われる恐れもあって、贈ってくれる可能性ある後援関係者に余計に気を遣うことも多かったという当時のプロボクサー。そんな自分に返って来ない空っぽ激励賞をリング上でリングアナウンサーから渡されても嬉しくもなく、さっさとセコンドに渡してしまうと、そんな態度が非難されることもあり、リングで戦う前にも気苦労があったりするものだった。
◆リング上の儀式として
リング上で渡される激励賞は、お祝い用熨斗袋が使われている場合が多く、持ち運ぶリングアナウンサーから見れば進行上、嵩張るものは扱い難い。水引の付いたものはそれなりの大きな金額である場合に使われるが、人によっては普通の茶封筒、ポチ袋で持って来る人も居て、これらは束ね難くなり、選手に渡した際、落としてしまう姿もよく見られる。気の利くリングアナウンサーは、こんなポチ袋や水引熨斗袋も纏められるよう輪ゴムとクリップを用意しているという。
激励賞の贈り名呼び上げは、本来ファンサービスの一環であり、書かれる選手名や差出人の肩書・名前などは「渡部」はワタベと読むのかワタナベと読むのか、「堀田」はホッタかホリタか。慌ただしい進行業務が続くリングアナウンサーにとっては「中田」を田中と読んでしまう勘違いも起こりやすく、読み違いしないよう読める字にも振り仮名を付けておく方が慌てさせない、進行を遅らせない為にも贈り主の気配りが欲しいところでしょう。
中には明らかに本人でもないのに著名人名を名乗るとか、「半グレ一同」とかエッチなお店の名前のようなものも読み上げると場内に笑いが起きたり、迷った場合は「読み方が解らなくて大変申し訳ございません!」と言葉を濁すこともあるという。
プロボクシングに於いては、激励賞の読み上げは、ひとつ前の試合の後半のインターバルに「次の試合に出場致します、○○選手に激励賞です!」といったアナウンスの後に読まれ、その試合が早いラウンドでKO決着が付けば、激励賞を渡される試合の選手入場前に読み上げられるが、これらは試合進行をスムーズにするための手段。
キックボクシングでは各団体、イベントによってやや手法は違うかもしれないが、選手入場後、選手に渡す直前に読み上げており、当たり前のように慣習化した今後も続く儀式でしょう。
激励賞の中身の相場は選手仲間など同年代では1万円を包むことが多いと思われるが、それより少なくても応援の気持ちがあれば問題は無い。贈る側の年齢や肩書が上の立場になるほど、やや金額が増すのも一定の相場ラインのようです。
ボクシングとキックボクシングに関わらず、ファイトマネーは33パーセントがマネージメント料としてジム側が取る権利があるが、激励賞からも33パーセント引くジムもあるようで、それは違法ではなくとも、激励賞は応援するファン個人が選手個人に贈られるプライベートなものと考えてあげて欲しいところです。
試合後に主催者やスポンサーから敢闘賞を出される場合もあり、他にKO賞やベストバウト賞など、終わってみてからの想定外の収入はまた嬉しいものでしょう。
◆選手が少しでも潤う環境を
最近の話では、選手からチケット購入する人からのドタキャンがあること。選手は試合前の練習や減量以外にもチケットを売り捌く仕事で時間を奪われる上に、更に追い込むようにドタキャンとは可哀想な苦難である。
「応援したい選手の試合観戦に行けず、チケット買ってあげれないなら、少額でも激励賞出してあげて欲しいですね。」という関係者の意見も聞かれます。
ボクシングやキックボクシングでは選手に対して面識無いファン個人でも激励賞を贈ることは可能で、選手側は誰が贈ってくれたか知らなくても問題は無い。
負けが込んでいても長く頑張っている選手を見ると、懐に余裕があれば贈ってあげたくなるものです。
昨年はコロナ禍の中、一部ではクラウドファンディングによって、選手のオリジナルグッズの応援購入も行なわれました。新たな時代の選手応援方法も変わってきたものですが、選手の試合に影響するような負担は極力無いように、より潤う環境を整えてあげたいものです。
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」