「解散」という言葉が飛びかい、政局が総選挙にむかって焦点化している。このかんの二階発言「内閣不信任案なら、解散して世論に問うべきだ」が、にわかに解散総選挙を浮上させたのだ。自民党内からも「選挙は早い方がいい」「5月が菅政権のピークだ」の声が上がっているという。
騒ぎのきっかけは、3月の下村博文政調会長の発言だった。下村会長は政府がコロナ緊急事態宣言の解除を決めた3月18日の講演において、菅首相の4月訪米と日米首脳会談が固まったことにふれ「内閣支持率にも多分プラスになる。そのときに(解散)ということは可能性としてはある。追い込まれ解散という構図はつくりたくない」と述べて、訪米後の解散の可能性を指摘したのだった。
下村は最大派閥の清和会(細田派)の副会長であるばかりでなく、総裁選にも野心を持つ総理総裁候補である。その意味では、解散発言は菅政権への揺さぶりにほかならなかった。
これにたいして、二階俊博幹事長は「解散は首相が決めることだ。軽々しく言うべきものではない」と下村発言を批判。
「(下村氏が)どれだけ仲間の選挙のために汗をかいたのか。自分の選挙は大丈夫なのか」と怒りを露わにした。
◆自民党に追い詰められた二階自民幹事長
しかし下村の動きは、党内反主流派のうごきと対応したものだった。
それは3月初旬、議員会館の自民党議員事務所にポスティングされたA4一枚の「怪文書」といわれるものだ。
文書の差出人は「総選挙前に党則第6条第1項(総裁公選規程)に基づく総裁選挙の実施を求める会」で、以下のような日程が記されている。
「9月7日自民党総裁選挙告示 ▽9月20日総裁選挙投開票日(総裁決定) ▽9月22日首班指名 ▽9月27日解散 ▽10月24日総選挙投票日。」というものだ
差出人名からみてもわかるように、9月に総裁選を実施し、そこで選ばれた総裁のもとで衆院を解散するべきだ、という主張なのだ。
暗に菅総理による五輪前の解散を否定している。そして、五輪・パラリンピックが閉幕する9月5日を待ち、その後に総裁選、解散総選挙へと進むスケジュールを例示しているのだ。
したがって下村政調会長の発言は、早期解散で9月総裁選を見越したものとも、そこでの菅総理の早期退任を展望したものともいえよう。
いっぽう、菅政権の主柱を自認する二階幹事長は、下村発言に不快感を表明していたものの、ここにきて、ジリ貧よりはマシな解散の選択肢として、都議選前・オリンピック前の総選挙を考えていることを明らかにしたのだ。
冒頭に紹介した二階発言である。
「私は解散権を持っていないが、野党が不信任案を出してきた場合、直ちに解散で立ち向かうべきだと菅首相に進言したい」(3月29日)。
◎[参考動画]菅首相 自民・二階幹事長と会談、今後の政権運営協議か(TBS 2021年4月1日)
したがって、解散総選挙は本格的に政局の焦点となった。
都議選前というのは、都議選後に公明党(創価学会)が選挙疲れになる前に、都議選準備と連動したうごきで選挙に臨む。観客が日本人だけになると考えられるオリンピックの前に、せめてもの期待感とともに選挙に臨む。
この場合は、外国人選手の参加がイマイチとなり、トホホなオリンピックになった場合の寂莫感、やらなかった方が良かったという中での選挙よりもマシ、ということになる。
そしてそこには、総選挙における野党共闘の脅威。このかんの知事選での連敗(山形・千葉)が、三度目の政権交代という現実性を感じさせるからにほかならない。政権交代の可能性については、本通信の過去記事を参照されたい。いずれにしても、4月補選が当面の焦点となる。
◎《書評》『紙の爆弾』4月号 政権交代へ 山は動くのか?(2021年3月14日)
◎三度目の政権交代はあるのか? 小沢一郎と山本太郎の動向にみる菅政権の危機(2021年3月9日)
◆勝てるタイミングを見計らう
ところで、2017年秋の解散総選挙をおぼえておられるだろうか。
この年、北朝鮮の核実験・ミサイル実験によって、列島は「ミサイルアラート」の発動で準戦争状態だった。
もちろんこれは、安倍政権による過剰な「明日にも北朝鮮のミサイルが日本を襲う」という演出によるものだった。北朝鮮が全面戦争=国家の破滅、を前提にした核ミサイル攻撃をするはずがないことを見越した、いわば国民を人質にした選挙戦術だったのである。
そしてそこには、もうひとつ選挙にはデータの活用がある。すなわち、各政党およびマスコミには、多数の調査会社からデイリーで「選挙データ」が送られてくるのだ。その内容はデータサンプルも小さく、ほとんど眉唾モノのデータにすぎないのだが、いちおう数字が出てくるのであながち無視はできない。
連日、ある傾向をもって出てくるデータ(円グラフ)を曲線グラフに変換することで、投票行動の予想値まで算出できるという。そのデータをもとに、政権としてのパフォーマンスを付加すれば、選挙で勝てるタイミングが得られるのだ。
2017年の総選挙は、まさに選挙データと北朝鮮のミサイル実験がかさなったタイミングだったが、かならずしも与党圧勝とは言えない(解散前の自民議席284→284、公明党35→29)。
それでも、森友・加計学園疑惑という、安倍政権にとってお友だち優遇のウィークポイントが喉もとに突き付けられているなかで、政権延命のまずまず温存選挙となったのである。その後、タイミングを計れない定日選挙の2019年の参院選では、自民党は9議席減となっている。
安倍前首相が来県「安定政権を」 早期解散も?与野党の動き加速【新潟】(NST 2021年3月29日)
◆賞味期限切れの自民党政権
いまふたたび、自民党は選挙のタイミングを計ることで政権を維持しなければならない局面に立たされているのだ。
そのファクターは、菅総理というおよそ地味で、選挙向きではない看板にあること。コロナ禍の第4波到来をまねいた失政による自滅。しょぼいながらも、オリンピックを開催しなければならない成り行き。あるいは長期政権による弊害を、ほかならぬ選挙民たちが痛感している、いわば交代時期の到来によるものだ。
それにしても早期解散説の5月は、やはり難しいのではないか。
日刊ゲンダイが伝えるところを紹介しておこう。
「解散を先に延ばしても、菅首相には展望はありません。ただ、4月解散――5月総選挙は難しいでしょう。新型コロナウイルスの第4波が猛威を振るっている可能性が高いからです。ゴールデンウイークに人の動きが活発になるのは間違いない。その2週間後、3週間後に感染者が急増する。まさに、選挙期間中です。菅政権に批判が集中するのは明らかです。ワクチンの本格接種も始まっていない。やはり、本命はオリンピックの後でしょう。早期解散説は、4月25日に行われる3つの国政選挙で敗北したら“菅降ろし”が勃発するから、その前に解散するはず、というのが根拠になっています。でも、菅官邸は“3敗しても菅降ろしは起きない”と確信を強めています。3敗する場合、参院広島選挙区でも負けるということですが、その場合、“ポスト菅”の最右翼である岸田文雄氏も、広島県連会長として責任を問われる。ポスト菅がいなくなれば、菅降ろしも起きないという計算です」(政界関係者)。
首班後継最有力である岸田文雄に目がなくなることで、二階構想(河野太郎・野田聖子)が現実性を帯びてくるのだが、いよいよ4月の補選が見逃せなくなってきたと指摘しておこう。
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。